メタルケースの電波ソーラーは何が難しい?――2004年のOCEANUSを振り返るOCEANUS10周年(1/5 ページ)

» 2014年03月27日 08時00分 公開
[吉村哲樹,Business Media 誠]
カシオ 時計事業部 モジュール開発部 モジュール企画室 岡本哲史氏

 カシオ計算機(以下、カシオ)のウォッチブランド「OCEANUS(オシアナス)」が、今年でちょうど誕生10周年を迎えた。独自のブランドイメージと世界観で、主に30代・40代の「大人の男」の間で人気を博しているOCEANUSだが、同時にカシオの先進技術がいち早く投入されるブランドでもあり、テクノロジー面においても常に最先端を走り続けてきた。

 そこで今回は、これまでOCEANUSのテクノロジーや機能面での企画を主導してきた、カシオ 時計事業部 モジュール開発部 モジュール企画室 岡本哲史氏に、OCEANUSのこれまでの10年の歴史を、主にテクノロジー面から振り返ってもらった。OCEANUSの話であるだけでなく、電波ソーラー時計の技術革新の歴史でもある――そんな興味深いお話を数々うかがうことができた。

初代OCEANUSはカシオ初の「メタルケースの電波ソーラー時計」

OCEANUSの初代モデル「OCW-500TDJ-1AJF」(2004)。希望小売価格は4万〜6万円だった

 OCEANUSの初代モデル「OCW-500」が発売されたのは、2004年のこと。当時、カシオの時計といえば液晶画面のデジタル時計が中心で、針と文字盤を備えたアナログ時計のイメージはほぼ皆無だった。そんな中、プラスチックケースにクロノグラフフェイスとデジタル液晶を組み合わせた顔を持つ電波ソーラーモデルがひっそりと存在していた。岡本氏によれば、このモデルが初代OCEANUSの原型になったのだという。

 「当時シチズンさんが、世界初のメタルケース電波時計となるアテッサを世に出したことに刺激を受けて、われわれもメタルケースの電波ソーラーモデルに本腰を入れようと考え、既にあったプラスチックケース版のモジュールをメタルケースに格納したのが、OCEANUSの原型になりました」(岡本氏、以下同)

 こう聞くと、プラスチックケースに収まっていたモジュールを、単にそのままメタルケースに詰め替えるだけだったという印象を持つかもしれなが、当時の技術ではまだ、メタルケースは電波時計にとって「鬼門」だったのだ。

初代OCEANUS「OCW-500」の部品一覧

「メタルケースの電波時計」の難しさ

 「我々も以前からメタルケースの電波時計の研究は進めていましたが、プラスチックと違いメタルは電波を遮断するため、受信感度を上げるのが難しいのです。ましてや、カシオでは電波受信レベルの社内基準を相当高いレベルに設定していましたから、この基準をクリアできる受信アンテナ部品の開発には相当苦労しました」

 200種類もの試作を繰り返し、少しずつ改良を積み重ねていく。その結果、この受信アンテナ部品の開発だけでも1年間を要したという。また、ケースの裏蓋に受信感度を上げる素材を貼ることによって、受信感度がアップすることも分かった。こうしたブレークスルーもあり、何とか受信感度の基準をクリアすることに成功した。

 ところが、いざモジュールを試作品のケースから製品のケースに移し変えてみると……受信感度がまた落ちてしまった!

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