7億円を投資してバイオ燃料の旅客機を飛ばすルフトハンザの本当の狙い:秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(4/4 ページ)
地球温暖化の防止へ、エアライン業界でもさまざまな取り組みが始まった。環境規制の厳しい欧州では現在、ドイツのルフトハンザが、バイオ燃料による商業路線でのデイリー運航を実験的に続けている。
一人ひとりができることから
さて、再びハンブルグ国際空港へ──。17時15分にスポットインしたA321への給油作業が、つい先ほど終了した。その様子をひと通り撮影し、私とカメラマンはA17の搭乗ゲートへ移動した。これから乗るLH023便がバイオ燃料を使用するフライトだと分かるように、ゲートの近くには「Pure Sky」のロゴマークが入った立て看板が置いてある。同様な表示が機内へ入るドアの横にも、そして機内にはやはりバイオ燃料フライトを告知するための小冊子が用意されていた。いずれも、乗客へのPRが目的ではない。
「私たちは、ただ知ってほしいんですよ」とキルシュフィンク氏が言っていた。「ルフトハンザはこんな取り組みを進めている、といことを。同じように、一人ひとりができることにまず手をつけてほしい。ルフトハンザはルフトハンザのやり方で、他のエアラインは別の方法で、そして一般の人たちも自分たちのやり方で行動を起こす。地球環境を守るには、いまできることをそれぞれがやるしか手がないんですよ」
LH023便は、定刻の18時05分にスポットを離れた。出張帰りの乗客が多いのか、機内はほぼ満席だ。通路をはさんで隣のシートでは、30代くらいのビジネスマン風の男性が書類に目を通している。バイオ燃料フライトについての感想を聞くと、彼は一瞬考えてから小さくうなずき、ぼそっと一言だけ呟いた。
「うん、大事なことだよね」
18時16分。バイオ燃料を積んだA321はハンブルグ国際空港を離陸した。いつものフライトと、何も変わることなく。
著者プロフィール:秋本俊二
作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各メディアにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオのコメンテーターとしても活動。
著書に『ボーイング777機長まるごと体験』『みんなが知りたい旅客機の疑問50』『もっと知りたい旅客機の疑問50』『みんなが知りたい空港の疑問50』『エアバスA380まるごと解説』(以上ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)、『新いますぐ飛行機に乗りたくなる本』(NNA)など。
Blog『雲の上の書斎から』は多くの旅行ファン、航空ファンのほかエアライン関係者やマスコミ関係者にも支持を集めている。
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