旅客機が羽をはばたく――どうなってるの? 主翼の構造:秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(1/3 ページ)
「ねえ、見て見て。この飛行機、羽をバタバタしてる」と、フライト中に男の子が声を上げた。それを聞いて「飛行機は鳥じゃないんだから、羽はバタバタしないのよ」と隣のお母さん。さて、どちらが正しいのか? 今回は旅客機の主翼の構造について──。
国内の空を移動中のことだ。エコノミー席の中央あたり──主翼のやや後方の窓側に座っていた男の子が、外を見ながら「ねえ、見て見て。この飛行機、羽をバタバタしてる」と隣のお母さんに教えている。私は通路をはさんで反対側の席だったが、よく通る声だったので、周囲には親子の会話が聞こえていた。
「あらま、この子ったら」と、それを聞いたお母さんが言う。「飛行機は鳥じゃないんだから、羽はバタバタしないのよ」
お母さんは周囲の視線を気にしている様子だった。しかし、おそらく男の子には、旅客機が本当に羽をバタつかせているように見えたのだろう。上空の気流の悪いエリアを通過するときなどに、主翼が揺さぶられて上下に動く(たわむ)のは珍しいことではない。今回は、旅客機の主翼の構造について書いてみたい。
“しなやかさ”が主翼設計のキーワード
旅客機の主翼は、桁(けた、スパー)、小骨(リブ)、外板(スキン)などのパーツで構成されている。翼幅方向(つけ根〜翼端)に数本の桁が伸び、これと直角(翼の前後方向)に交わる形で小骨を配置。その障子の桟(さん)のような骨組みの上面と下面に、障子紙を貼りつけるような形で外板が装着されている。
主翼には旅客機を空中に浮き上がらせるために必要な揚力を発生させる役割があり、飛行中は常に上方向に反り返ろうとする。反対に胴体部分には重力が働き、地面の方向に引っ張られるため、しなやかな構造につくらなければ主翼が空中でバリッと折れてしまう危険性があるわけだ。
強度とともに、主翼の設計ではそうした“しなやかさ(柔軟性)”がとても重要になる。だから上空で気流の悪いエリアを通過するときには、主翼が上下に揺さぶられるように動いて当たり前。もともとそういう構造になっているのだから。それによって翼のつけ根の部分にかかる力が分散し、胴体(キャビン)の揺れも小さくなって乗り心地も向上する。実際、フライト中に主翼が上下に5メートル近くしなるのを間近で目撃したことも、一度や二度ではない。冒頭に紹介した男の子には、それが「鳥のように羽をバタバタさせている」と見えたのだろう。
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