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2004/01/26 19:37:00 更新

e-biz経営学
国際化の陥穽:形態・構造を離れて機能性に着目しよう

世界のある地域における事象は、その地域の歴史・文化・宗教・社会システム的背景に根差す要素と、世界のどの地域にも適用し得る普遍的な要素とを含んでいる。同じシステムを自らの組織に適用することを考える場合、直接的に移植するような方法では成功しない。

 アメリカについて書かれた書物は数多くありますが、向こうで暮らした日本人として最も深く心を動かされたのは、司馬遼太郎著「アメリカ素描」(新潮文庫)です。この本の中で、司馬さんは、ある地域に固有かつ世代を超えて受け継がれていくものの総体を“文化”、世界のどの地域の人々にも即座に受け入れられる普遍性を持つものの総体を“文明”と捉えた上で、“文化”から“文明”への昇華過程を論じています。

 4大文明を考えると明らかですが、歴史的に文明が発祥した地域は、肥沃な大河のほとりに複数の文化圏が隣接しているという特色を持っています。A文化圏に固有のある工芸品は、B文化圏の人々にとって最初は不可解かもしれませんが、地理的に近い理由により経済的交流が自然発生し、あるとき、「あぁ、この工芸品はこういう利便性を持っていたのか」と、その機能性に気付くことになります。すると、B文化圏の人々は、その工芸品を、同じ機能的利便性を持ちながらも自分の文化に合う形に改変するようになります。

 こうした過程が複数の文化圏を巻き込んで展開することを通して、当初、A文化圏に固有であった工芸品の機能性が純化・強化され、やがてどの文化圏の人々にとっても機能性が明らかな形態・構造に収斂する。そのとき初めて、その工芸品は文明の域に達する。司馬さんは、移民国家であるアメリカの本質を、そうした“文化”から“文明”への昇華過程を国内で展開し得る世界で唯一の国、と見事に喝破されています。

 司馬さんの洞察から、何を学ぶべきでしょうか? 世界のある地域における事象は、その地域の歴史・文化・宗教・社会システム的背景に深く根差す要素と、世界のどの地域にも適用し得る普遍的な要素とを混在して含んでいます。従って、ある地域のあるシステムが成功を収めており、同じシステムを自らの組織に適用することを考える場合、その形態・構造を直接的に移植するような方法では、混在した要素をそのまま導入することになり、決して成功しません。その地域に固有の要素を引き剥がす鍵は、そのシステムが果たしている役割・機能に着目し、「どの時代のどの社会システム・組織にも通用する機能的理解」を確立し、そうした機能性を自らの固有の組織に適用するには、どのような形態・構造がふさわしいか、という風に問題を立てることです。国際的な洞察力を得るためには、こうした階層的構想力を鍛えることが極めて重要です。大切なことなので、図示しておきます。

図

 問題は、世界中どこでも、形態・構造を直接的に移植する試みが氾濫していることです。アメリカも例外ではありません。1980年代、アメリカ製造業はトヨタに代表される日本的経営を導入することに躍起となりました。例えば、QCサークル活動は、どのような階層の人々がどのような頻度でどのような会合を持ち、どのようなテーマがどのように提起され、どのように判断が下され実行されていくのか。まさしく形態・構造的な導入を図ったのですが、直接金融に基礎を置く競争社会の中での労使関係は間接金融を基盤としてきた日本のそれとは本質的に異なり、根付くはずもありません。A社ではQCサークルを導入し、それなりの成果を挙げたのですが、「皆さんの貢献のお陰で皆さんは必要なくなりました」と、生産効率の向上に見合うだけ労働者を解雇したのです。

 日本から見れば全く笑い話ですが、アメリカ的競争社会の中で盲目的にQCサークル活動を導入すれば、こうした事態は起こり得るのです。労働者が、それ以後、積極的にQCサークル活動に参画しなくなるのは当然です。それは経営者の品位の問題ではなく、社会システムの本質に関わる問題です。

 QCサークル活動は、「組織的学習能力の定着化」という組織的機能を果たしています。詳細は第2水準の国際化対応で組織管理を論述する際に譲りますが、一言で言えば、ある人の挙げた成果が、その人が現場を離れても組織に定着するような制度的保証を確立することです。これは、どの時代のどの組織にも望ましい組織的機能です。アメリカ的競争社会では、人材も競争市場を通して配置されます。自分だけができることがあればその人の市場価格は高くなり、組織的学習能力を高めるような働き方をすれば、相対的に自らの市場価格を低めることになります。解雇に晒される労働者。個人の市場価値を重要視するホワイトカラー。従って、社会システム的に「組織的学習能力の定着化」が困難です。アメリカ的競争社会でQCサークル活動のもたらす効果を定着させるためには、そのような能力を評価する人材競争市場を陽に創出することが不可欠です。そうすれば、日本とは異なる形で「組織的学習能力の定着化」を図る道が拓けることでしょう。

 日本の国際化対応を見ると、国際競争を勝ち抜きつつある製造業の一部企業群を除いて、目を覆うばかりの惨状を呈しています。橋本内閣から現在まで、やって来たことと言えば10年から15年遅れでアメリカを形態・構造的に模倣することのみと言っても過言ではありません。自衛隊のイラク派遣もあり暗澹たる思いですが、そうばかりもして居られません。皆さん、自分の居る場所で大きく深い構想力を発揮して元気を出して生きていく他はありません。国際化とIT革命を巡る諸問題を“深く考える”冒険の旅を、共に続けましょう。

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[住田潮,筑波大学]

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