上司/部下とスムーズな会話をする(1)コミュニケーションをワンランクアップ!

上司を説得したい、部下のモチベーションを上げたい、プレゼンを成功させたい、合コンで彼女のケータイ番号をゲットしたい……。これらを成功させるには、相手と自分の間に信頼関係を築くことだ。平本流コミュニケーションスキルを、状況別に紹介していきます。

» 2006年09月12日 20時14分 公開
[平本相武(構成:房野麻子),ITmedia]

 よく、「コミュニケーションが全然とれていない/コミュニケーションがよくとれている」ということを言いますが、実はコミュニケーションがとれていないことはないのです。コミュニケーションは常に起こっている。ただ、それが自分の望むコミュニケーションかどうか、だけなのです。

コミュニケーションとは?

 例えば、「最近、部下と全然コミュニケーションとれていないよ。だって、1カ月に1回くらいしか飲みにいってないんだよ」と上司がいったとします。でも部下は、「十分コミュニケーションとれていますよ。1カ月に1回も飲みに付き合っているんですから」というかもしれない。つまり、コミュニケーションにはちょうどいい距離があって、この距離が人によって違うのです。

 また、コミュニケーションは言葉だけではありません。例えば、サッカー選手はアイコンタクトでパスをつなげたり、俳優や漫才師は声のトーンでさまざまな表現をしたりしています。穏やかに「だめだよ」というのと、猛々しく「だめだよっ!」というのと、全然違いますよね。表情やボディランゲージ、口調や声のトーンでも、実はコミュニケーションしているのです。「この商品、どうですか?」と聞いたら、「う〜ん」とうなりながら腕組みをする、というのもコミュニケーションですし、「この提案どうですか?」と企画書を差し出したら、「は〜」とため息をして企画書を机に放り出すようだと、「ダメ」っていう意味のコミュニケーションですね。このように言葉以外でもコミュニケーションをとっています。

 現代は、誰とどういうコミュニケーションをとるかを、5感を開いて自分で選ばなくてはならない時代です。この部下と、あの上司と、この人と、どういうコミュニケーションをとるか、選んでいかなくてはなりません。その理由は3つあります。

コミュニケーションの3つの変化

 1つには役割が多様化しているからです。昔は、上司はこう、部下はこう、上司が誘ったらこうやって飲む、などと決まっていました。家に帰ってきたら、女房はこう、旦那はこう、子供はこう、と役割が明確でした。だから何も考えずに自動的にコミュニケーションをとることができました。ところが現代の役割は多様化しています。

 また2つ目に業種や業態も多様化しています。会社にしても、きちっとした古いタイプもあれば自由なところもある。ベンチャーもあれば大手もある。上司と部下が友達みたいに接しているところもあれば、非常に上下関係の厳しいところもある。世の中が多様化しているので、部下だから、上司だから、お客さんだから、このように接する、というものがなくなってきています。

 3つ目は、同じ相手でも月日が経つと、コミュニケーションが変わってくるものだからです。上司部下の関係になって半年の人と10年の人とでは、だいぶ違いますよね。10年たっても新入社員のように「わかりました、がんばります!」なんてやっていたら、「おまえ、水臭いなあ」なんてことになります。「違うじゃないですかぁ、課長〜(笑)」くらいのノリがいい場合もあるでしょう。

 役割や業種・業態が多様化し、同じ相手でも年月が経つとコミュニケーションが変わってくる中で、「こういう風にやっていればいい」という万能モデルはありません。自分で意識してその場その場に応じたコミュニケーションを選べるようになる必要があるのです。誰とどんなコミュニケーションをとりたいかを考え、自分でコミュニケーションスキルをマスターしていきましょう。

言葉はそのまま伝わらない

 コミュニケーションは、まず、「量よりも質」です。

 言葉のコミュニケーションを考えてみましょう。言葉で相手に何かを伝えるときに、どんな人でも必ず、五感や感情を伴った自分の体験を基に言葉を使います。

 仮にAさんが上司、Bさんが部下だとします。上司のAさんが、「君、もうちょっとやる気を出してくれよ」と、部下のBさんに“やる気”という言葉を使って伝達します。“やる気”という言葉は、Bさんに伝わりますが、実はAさんが言っている“やる気”と、Bさんが知っている“やる気”は、違う“やる気”なんです。

 例えば、Aさんは“やる気”を、元気がいいとか、声が大きいとか、挨拶を気持ちよくするとか、10分以上早く出社することだと思っている。ところが、部下のBさんは、「やる気を出せ」ということを「業績を上げろ」という意味に受け取ってしまった。そこで、「わかりました、やる気を出します!」といって、業績を1.2倍に上げたのだけど、いつも遅刻するし挨拶も元気がない。Aさんは、「もっと、やる気を出せよ!」というのに、Bさんはそういわれて、「1.2倍じゃ足りないんだ、1.3倍に上げなきゃいけないんだ」と思ってしまう。そして相変わらず、遅刻するし挨拶は元気ない。Aさんは「だ・か・ら! やる気を出せよ!!」となってしまうわけですね。

 話し手の“やる気”と聞き手の“やる気”は、違う“やる気”なんです。「やる気を出せ!」と何度も言っても、「やる気とは何か」が人によって違うから伝わりません。

 「やる気」「コミュニケーション」「モチベーション」「リーダーシップ」──どんな言葉も、話し手と聞き手の体験が違います。このままだと、どんなに回数を重ねても真意は伝わりません。

 ここで大事なのは、聞き手が、「“やる気”っておっしゃいましたが、特に私のどういうところが、やる気がないでしょうか?」とか、「どのへんをどうすれば、やる気があると感じられますか?」と好奇心を持って確認し、「挨拶の声を大きくすることだよ」とか、「元気良く声を出すことだよ」とか、「遅刻せず早めに来ることだよ」と具体的に言ってもらうことです。すると、直すことができますね。

 このように言葉1つとっても、話し手と聞き手とで違うのです。だから、コミュニケーションの質が非常に大事です。

 ところで、なぜ話し手と聞き手でこのような誤解が起こるかというと、体験を言葉にするときに、必ず「一般化・歪曲・省略」が起きるからです。

 例えば、駅からの道順を“全部”教えようとすると一生かかりますね。駅から出たところに見える建物すべて、ポスターに写っている人のプロフィール、化粧、ファッション、趣味から、印刷の解像度、道に落ちているゴミ……など目から入る情報を全部言うのは無理です。なので、道順を教えようとすると、「女優のポスターがあって、そこを10メートル行ったら右に曲がって、ワンフロア上がったら左に折れて……」というふうに省略します。この「一般化・歪曲・省略」を使うと、全部言わずに済むので便利なのです。ところが誤解を招きやすい。


 大事なのは、一般化・歪曲・省略していいところと、しちゃいけないところを区別することです。例えば、「今日、○○に取材にいきました」と上司に報告し、「どんな話だった?」と聞かれたとします。「ちょっと最初、世間話をしたあとに、コミュニケーションの説明を受けました。で、課題はAとBとCです」と答える。その際、世間話の内容を全部言う必要はありませんね。これは一般化・歪曲・省略したほうがいい部分です。

 一方、「じゃあ、どんな話をした?」と聞かれたときに、「いい話でした」じゃ、ダメですね。「コミュニケーションの○○と××と△△について聞きました」まで必要です。とはいっても、上司だったら、この程度でいいですね。ところが、コンテンツを作るためにライターと打ち合わせするとなったら、「コミュニケーションの話を3つ聞きました」だけじゃだめですね。場面や人に応じて、「具体化・個別化・明確化」する必要があります。

 次回はNLP(神経言語プログラミング)を応用した、バックトラッキング・ミラリング・ペーシングという考え方を紹介します。

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ピークパフォーマンス 代表取締役

平本相武(ひらもと あきお)

 1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は「成功するのに目標はいらない!」。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。


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