連載
» 2006年12月20日 10時14分 UPDATE

Web2.0時代のブラウザ論(最終回):これからやってくるWebブラウザ2.0

次世代のWebブラウザ──Webブラウザ2.0とでも呼ぶべきものは、どんな進化を遂げているのか。Web2.0の動向を踏まえつつ、ブログ、Flickr、Napster、BitTorrent、Wikipedia、Webサービスなどを例に、進化の道筋を予測してみよう。

[近藤秀和,ITmedia]

Web2.0時代のブラウザ論
  連載タイトル
1 第2次ブラウザ大戦、始まる
2 Web上の情報整理はどう変わったか
3 ブラウザとロングテール
4 これからやってくるWebブラウザ2.0

 Webブラウザというものが登場して以来、インターネット、そしてWebの進化とともにブラウザがどのように進化してきたかを、前回までで振り返った。WebブラウザはWebそのものの進化に歩調を合わせ、情報整理手法と、表現力を強化してきた。それとともに、Web2.0時代のコンテンツ爆発に対応するため、Web2.0的な開発手法を取り入れながら進化をする方法をも身につけた。

 今後ブラウザは、ロングテールに位置するユーザーを利用した開発手法を取り入れ、さらに勢いを増して進化を始める。では、具体的にはどのように進化していくのか? 今回は、Web2.0といわれている技術・サービス(ブログ、Flickr、Napster、BitTorrent、Wikipedia、Webサービス)を中心に予測してみよう。

WebサービスのインタフェースとなるWebブラウザ

 今までのブラウザは、主に情報整理力、表現力の2つを中心に進化してきた。今後はそれに加えてさまざまなフリーウェアなどで提供されてきたインターネット関連のツールを統合し、統合インターネットクライアント・ソフトウェアへと進化していくだろう。

 例えば、ブログに対するブラウザの進化──入力保護機能やRSSのマージ、フィルタリング技術など──は、今後はブログ・エディタとしてさらに本格化していくことになる。秀丸やemacs、Wordなみのエディタ機能が付いたブラウザがあったら、使ってみたいと思わないだろうか?

 ブログに対するコメントやトラックバックに加え、誰かのブログに対して複数人でリアルタイムチャットを行えるサイドバーも発達する。Web2.0の大きな特徴の1つとして「ユーザー参加」の概念があるが、あるWebサイトに対してみんなで並列的に論評することができるようになれば、Webの信頼性はより高まる。フィッシングサイトであるかどうかを見つけることも容易になるだろう。

 Wikipediaは、現在でもネット上で最も優れた辞書サービスになりつつあるが、ブラウザには辞書モードが搭載され、サイト上のあらゆる単語と自動的にWikipediaを結び付ける機能が搭載される。そのうちあらゆる辞書はブラウザに統合され、音声認識と結び付いてキーボードを打つ必要性すらなくなるだろう。

 最近は良いドメインを取ることよりもSEOが大事であるといわれているが、ブラウザのアドレスバーに日本語で企業名を入れれば、かなりの確率でその企業の公式サイトに飛ぶことができるようになる。現在も同じような試みが始まっているが、あくまで登録されているWebサイトに飛ぶに過ぎず、将来的にはGoogleの検索結果の1位に飛ばすだけで同様のことが実現できる。

コンテンツ表現をパーソナライズするWebブラウザ

 Webサービスとブラウザは最も相性がいい。AmazonのAPIをブラウザから呼び出すことは非常に簡単だし、ブラウザであらゆるサービスをマッシュアップすれば、個人個人が好きなマッシュアップ・ページを簡単に作り出せる。マッシュアップするのにサーバがいらないので、ブラウザを利用するそれぞれの個人が自由なマッシュアップ・ホームページを作り出すことができるようになる。

 サイトを横断的に見る必要があるようなサービスも、ブラウザの得意分野だ。通常サーバサイドでほかのサイトのコンテンツを表示したり、その表現を歪曲したりしたら間違いなく著作権法違反となってしまうが、ブラウザはそもそもコンテンツをどう表現するかを決めるためのツールだから、法律やビジネス面で制約を解消してくれる。

 サイボウズ・ラボでリリースされているJapanizeという拡張機能サービスは、ブラウザの未来の可能性を予感させてくれる。このサービスは、サーバ側で何もしなくても、英語サイトが日本語に翻訳されて見える。この翻訳をサーバではなくブラウザ側で行うことが非常に面白い。そしてその翻訳は機械が行っているわけではなく、Wikipediaのように利用者がその知力を結集して人手で翻訳を行っている。

リコメンド機能を持つWebブラウザ

 自分のブログ閲覧履歴から嗜好を自動抽出して、その人に合わせたブログを推薦してくれるような“ブログ推薦エンジン”も進化する。サーバサイドでもさまざまな推薦エンジンが増えていくが、クライアントサイド(ブラウザ)である程度情報を収集し、本人の許可を得てサーバサイドで解析するようなシステムのほうがより個人の嗜好性に沿った推薦を行うことができる。事実、ブラウザに組み込まれたGoogleツールバーは本人の許可を得てサーバサイドに閲覧中のURLをすべて送信している。

 Flickrのような写真共有サイトに関しても、ブラウザはまだまだ進化する。写真をアップする機能がより簡略化されることはもちろん、Flickrから自動的に毎日写真を引っ張ってきてブラウザのデザインと融合させてくれる機能があるかもしれない。Lunascapeのようにブラウザに背景があるような場合は、背景に毎日スライドショーで友人の写真を表示する機能が付くかもしれない。FlickrとBitTorrentを連携させて写真コンテンツをP2Pでも共有できる機能が発達し、Flickrいらずになってしまう日もそう遠くないだろう。

 Napsterがブラウザと融合すれば、Webサーフィンに音楽を取り入れて、閲覧しているWebサイトごとに聞いているムード音楽を変えることもできる。サイト側が自分のサイトに一番会う音楽をNapsterネットワークから推薦し、購入アフェリエイトを得ることができるようになるかもしれない。auの携帯電話における「着うた」のように、音楽とWebがより密接に連携することは想像するだけで非常に楽しい。

情報やリソースを集約インフラとなるWebブラウザ

 SNSなどの双方向コミュニティサービスに対しては、ブラウザはそれを補完するツールとしてより重要になっていく。友人の日記が更新されれば即座にブラウザが通知を受け取り利用者に通知してくれる機能などが充実する。日記だけではなく、GmailなどのWebメールの内容や、上司からの仕事の依頼──とにかくあらゆる本人が収集したいと思う情報がマージされ、整理されてブラウザに集約されるようになるかもしれない。

 P2Pへのブラウザの取り組みもすでに始まっている。「Opera」はすでにBitTorrentに対応しているが、今後はすべてのブラウザがP2Pに対応し、大規模データのアップロードにサーバ管理者が困る日はそう遠くなく来るだろう。まだブラウザ側でP2Pをサポートすれば、企業は大規模サーバファームを構築する必要性すらなくなる。残った部分も、おそらくAmazonがユーティリティ・コンピューティングを完成されれば、1時間あたり10セントでコンピュータリソースを貸し出してくれるようになるだろう。


 このように、ちょっと考えただけでもかなりのブラウザ進化を予見できる。まずは現在Web世界で起きているWeb2.0コンテンツの増大に対応し、その玉石混淆のコンテンツへのアクセス技術、検索技術、フィルタリング技術が発展していくことになるだろう。ブラウザはそれらの発展に伴って、Web2.0コンテンツを補完したり、融合したりしながら、コンテンツの増大に対応するためにロングテールな人々を取り入れた開発手法に対応していく。そして、これによって生まれるブラウザ拡張機能が爆発を始める。これが整理統合されたブラウザへと進化する過程であると思われる。

 今後、ブラウザがどのように進化していくのか、非常に楽しみであり、またその歴史に関わっていけることを非常に誇りに思う。

筆者:近藤秀和(こんどう・ひでかず)

 1977年生。2002年、早稲田大学大学院卒。ソニー株式会社勤務を経て、2004年にLunascape株式会社を設立、現在代表を勤める。Webブラウザの開発をはじめとするソフトウェア開発を通じて、未来への可能性に挑戦し続けている。情報処理学会 BestAuthor賞受賞(2002年)、Microsoft Fellowship受賞(2004年)、経済産業賞認定天才プログラマー/スーパークリエータ受賞(2005年)、ソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤー受賞(同年)。


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