ビジネスの未来を見る人のアンテナの方向は――渡辺聡さん達人の仕事術

ブログをきっかけに独立し、ITコンサルティングから金融や経営関連など仕事の幅を広げている渡辺聡さん。ノートPC1台でどこでも仕事をし、執筆は“メモ帳”など限られたアプリケーションしか使わず、仕事スタイルは“シンプル”を徹底している。

» 2007年02月15日 12時18分 公開
[吉田有子,ITmedia]

 渡辺聡さんといえば、ブログ「情報化社会の航海図」によってその名を知った人は多いだろう。ブログの開始当時はIT関連のベンチャー企業で働いていた渡辺さんだが、このブログによって業界に名が知られるようになり、執筆やイベント支援などを依頼されることが増えたという。現在は会社を退職して個人事務所を設立し、フリーランスとして働いている。

 大学時代から政府の規制と企業活動の接点に興味を持ち、現在は「金融業界の最先端で働く人のブログが面白い」というアンテナの方向は参考になりそうだ。

ビジネス・技術・政策の接点について考える

 渡辺さんは現在、フリーランスの数名を核としたグループで、IT関連のコンサルティング、新規事業の開発支援、ベンチャー企業の役員、投資ファンドの運用支援、メディアでの執筆・講演などを行っている。

 現在の仕事について「大学で学んでいたことの延長線上にある気がする」という渡辺さん。大学は法学部を卒業したが、ゼミで「産業規制論」というビジネスと政策の関係を扱っていた。例えば、新薬の認可を素早くする方がいいか、それとも時間をかけてもしっかり試験する方がいいのか。早く認可すればその薬で助かる人が増えるが、試験がおざなりだった場合、予期せぬ副作用で被害者が出る可能性もある。このようなトレードオフの関係にあるものが研究対象だった。

 このようなビジネスと政策の関係に加えて、現在は技術とビジネスの関係についても考察している。その例として指摘するのが内部統制のあり方だ。「内部統制や個人情報保護法は“企業は情報を外に出してはいけない”という動きですが、これと、Web2.0的な“情報をサーバに預けていこう”という考え方はまったく逆です。情報を外に出すならば、セキュリティを担保する仕組みが必要です」

 「このような矛盾をどうクリアしていくか、ということが次のビジネスチャンスにつながります。大きな問題なので明確な答えはないですが、必要とされているのはどんな技術で、それをどこが持っているのか。やることは本当にたくさんありますね」

「現場を知っている」ということ

 渡辺さんは、会社員時代にSEとして業務システムを導入した経験はあるが、コンサルタント経験はない。「それなのに、どうして現在のようなコンサルタント的な仕事ができるの?」と質問されることが多いそうだ。実は、過去にこなしてきた現場経験が自分の強みだという。

 渡辺さんによれば、現場を知っていることによる利点は2つある。1つは、このレベルのものを作るなら、このくらいの時間は必要だろう、という感覚が分かること。無理に短い時間で作ろうとすると品質が下がり、長い目で見ると結局損をする。もう1つは会社の中での仕事全体の流れが分かること。全体のオペレーションを見ていると、営業は仕事をたくさん取ってきたのに、技術者が少ないのでこなしきれていないというような、ボトルネックになっている部分が見えてくるという。

 さらに最近は、IT関連よりもファンドの運営支援など金融関連や、企業の役員など、経営に直接タッチする仕事が増えている。渡辺さん自身には投資や財務関連の経験はないが、一緒に働いているグループ内には経験者がいる。「彼らに聞くと、金融業界の人ならここでこう考えるよね、とか、これがセオリーだよね、ということが分かります。このほか、個人で投資をして学んだこともあります」

“金融の最前線”にいる人のブログがいま面白い

 独立のきっかけになったブログ「情報化社会の航海図」は2004年4月から執筆している。それ以前から個人サイトでブログを書いていたら、当時のCNET Japan編集長に「CNETのブログとして書いてみないか」と誘われ、書くことになった。「ブログには悪口は書きません。“誰が読んでいるか分からない”ということを、心底理解したうえで書くことが重要だと思っています」

 ブログは渡辺さんに何をもたらしたのだろう。「ブログを書くことによって多くの業界関係者と会い、ネットワークができました。その経験を通じて、1社だけに属して働くよりも、複数の会社と取り引きする方が自然に感じるようになりました」

 また、独立したことは精神面にも良い結果をもたらしたという。「やりたくないことをやらなくて済むように、好きなことをやれるように――といっても“趣味人”的なものではなく――自分で納得できる仕事をしたい。そう思っていたら現在のような働き方になりました」と話す。

 ただし、フリーランスのグループという形で働いていると、契約や支払いのときには不便だという。「ある会社と契約をする時には、会社組織であれば会社対会社の1回の契約で済むのが、フリーランスだとメンバー全員がその会社と契約することになります。だから、現在のグループで会社にしようか、という話もあります。それでも、当面はオフィスは持たないでしょうね」

 ブログ執筆がきっかけで仕事が大きく変わった渡辺さんだが、他人のブログはどのくらい読んでいるのだろうか。使っているRSSリーダーはBloglinesとlivedoor Reader。そこに登録しているブログは600から700程度あるが、全部に目を通すわけではないという。

 「このブログが更新していたら絶対読む、というものはありますが、全体的には以前と比べてブログを読まなくなりました。次の本質的なものはどこから得られるのか、と考えると……。メディアだけが一次情報へのアクセス権を持っていた時代もありましたが、現在は、当事者と直接話をするのが一番大事だと思います」

 渡辺さんは、現在どんなブログに注目しているのだろうか。いわゆるアルファブロガーとして選ばれるような“定番”以外のおすすめとして、「漂流する身体。」と「ウォールストリート日記」を教えてくれた。

 「2つとも金融業界人のブログです。現在、情報化によって金融業界は変化の最中にあり、その変化はほかの業種にも必ず影響してきます。そんな金融の最前線で働いている人のブログは、やはり面白い」

 ブログ以外の情報収集についても聞いてみた。

 仕事のベースとなるような本はよく読むという。最近読んだ本としては、「技術系企業の経営についてまとめた『ターン・オーバー』は自分たちがまさに現場で経験したことを、自分の代わりに体系的にまとめてくれたような感覚を持ちました。『M&Aを成功に導くビジネスデューデリジェンスの実務』は、財務・金融系のリファレンスになる本です」

 テレビ番組では、テレビ東京のモーニングサテライトをよく見ている。「米国の資本市場の動きをコンパクトに捉えられるので重宝しています」

 「情報源という言い方は変なのですが」としながらも、現在は産休中の夫人も大事な情報源だと教えてくれた。一橋大学大学院の国際企業戦略研究科(MBAコース)を卒業して、小売流通のリサーチコンサルタントをしており、店舗運営の現場について詳しいという。

Let'snote1台で仕事、テキストエディタは「メモ帳」

スターバックスでLet'snoteを広げ、仕事する

 朝は客先でミーティング、午後はアポイントをこなしながら仲間と打ち合わせ、夜は自宅で資料を集め、目を通すというのが典型的な1日の働き方だという。このほか取締役をしている会社には週3回行っている。

 「日常的な仕事はLet'snote W4の1台で済みます。電池とネットワーク(AIR-EDGE)があれば、スターバックスで仕事できます」というのが渡辺さんのスタイルだ。「Let'snoteは壊れにくい、バッテリが持つ、余計なアプリケーションが入っていないという3点を評価しています」

 基本的にPC1台で仕事をしているので、バックアップは重要だ。外部のハードディスクに週1回バックアップしている。ここでも、バックアップ用のソフトは特に使っていない。代替機としてLet'snote R5を用意しているが、「画面が広い方が使いやすい」という理由で、普段は12.1インチのディスプレイを持つW4を使っている。

 電源が持つのは5時間程度だが「予備のバッテリを1つ持っていて、イベントや出張の際にはこれを持っていきます。お客さんのところだと電源は借りられますので、困ることはありません」

 現在利用している黒いかばんは、もともと夫人が買った子供を持つ母親用のものだという。普段の移動は自転車が多いため「PCを入れて、背負って自転車に乗れるので便利です」。

自転車で移動することが多い

 PCの使い方は徹底してシンプルだ。Office 2003以外にインストールしているソフトウェアはFirefox、Skypeなどに限られている。特殊なソフトウェアを使って「それがないと仕事できない」という状態を作りたくないからだという。使うソフトウェアは極力一般的なものにするのは、CEEK.JPの吉田光男さん(1月30日の記事参照)とも共通する特徴だ。デスクトップにも作業中のファイルが数個あるほかは、何もない。

デスクトップはいたってシンプル

 Skypeはよく使っている。オープンチャット機能を使って、業界の仲間と24時間チャット状態だという。「チャットの利点は挨拶抜きで細かい議論ができること、ログが残ること、ほかの作業と並行してできることですね」。Skypeで議論して決まったことをメールで関係者に送ることが多い。メールはGmailをメインに、役員をしている会社のメールはOutlookで受け取っている。

 ブラウザはFirefox 2.0で、特別な拡張機能は入れていない。会議などでホワイトボードに書いた内容をデジカメで撮り、Flickrにアップロードする。Flickrは有料版を使い、仕事関連で公開できない写真は自分だけしか見られない設定にしている。

 テキストエディタはWindows付属の「メモ帳」を愛用している。打ち合わせのメモを取るほか、プレゼン資料や報告書を書くときは、メモ帳でまず構成を書いてから始めることが多い。論理の筋を通すことをまず優先し、その後、想定読者のリテラシを考えて、その構成にどうやって肉付けをしていくか、例えば、解説をどこまでするか、ケーススタディを入れようか、と考えていく。誰に提出するかにもよるが、基本的にデザインには凝らない。派手さはなくても、ポイントがしっかり入っているものを作りたいと考えているという。

普段持ち歩いているもの。PCのほかには、iPod、携帯とデジカメ、読んでいる書籍、財布などこちらもシンプルだ
プロフィール
お名前 渡辺聡(わたなべ・さとし)
経歴 神戸大学法学部(政治経済、法社会学)卒。NECソフト、インターネット企業を経て情報産業を専門としたコンサルタントとして独立。投資ファンド、ネット企業からハイテクベンダーまで幅広く支援している。2004年4月よりCNET Japanで「情報化社会の航海図」連載を開始。各誌への執筆、カンファレンスの支援を含めてビジネスの現場とメディアの接点作りをサポートしている。日常の活動状況は事務所Blog「SW's memo / 渡辺聡事務所」にて。
PC Let'snote CF-W4 とバックアップマシンとして同じくR5の2台体制です。
携帯電話/PDA(データ通信カードを含む) 携帯:カシオ「W31CA」、データ通信:AIR-EDGE(通信デバイスは旧ホンダエレクトロン「AH-H407P」)です。AH-H407Pは本体のカードスロットに全部入ってしまうのは便利ですね。とはいえ、外での仕事が増えたので高速化しようか思案しています。
デジタルカメラ 富士フイルム「FinePix F31fd」、オリンパス「ミュー750」。半分家族用です。
ブラウザ Firefox 2.0
収集ツール(RSSリーダーなど) Bloglines、livedoor Reader
メールクライアント Gmail、Outlook 2003(Outlookは取締役で入っている会社用)
インスタントメッセンジャー Skype、Google Talk
ファイル整理ツール(デスクトップ検索を含む) 特になし。時々Google Desktop Searchくらいでしょうか。
バックアップツール 特になし。仕事ファイルはまとめてあるのでディレクトリごとストレージに移行します。
検索サイト GoogleをFirefoxの右上検索窓経由で。
Webメール Gmailメイン
ブログ ココログとVOX。写真はFlickrにアップロードしてストレージしています。
SNS VOX、Skypeチャット。ほかはほとんど使わなくなりました。
ソーシャルブックマーキング 特に使わず
Wiki 特に使わず
影響を受けた人/本/Webサイト 多数ありすぎるので割愛します。
座右の銘 特になし
手帳/ノート 特になし
ペン 特になし
その他小物(ICレコーダ、ポストイットなど) 特になし

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ