フリーランスとしてITコンサルティング、弁理士、翻訳などの仕事をしている栗原潔さん。独立に備えて複数の収入源を確保したほか、仕事量をできるだけ平準化する方法などを編み出した。
今は会社勤めをしていても「いつかは独立して、自分の名前で仕事をしたい」と考えるビジネスパーソンは少なくない。しかし、どうやって仕事を手に入れるのか、果たして食べていけるのか、といった不安を持つ人も多いだろう。
栗原潔さんは日本アイ・ビー・エム、ガートナー ジャパンなどを経て、2005年に「テックバイザージェイピー」という企業を立ち上げ、独立を果たした。仕事内容はIT関連のコンサルティング、寄稿や講演、商標とソフトウェア特許分野の弁理士、翻訳などだ。2006年には「キャズム」の著者でもあるジェフリー・ムーア氏の新刊「ライフサイクル・イノベーション」を翻訳した。
これらの仕事のうち、現在最も多くの時間をかけているのがITコンサルティングだ。企業の情報システム導入やIT戦略、マーケティングなどに関するアドバイスをしている。プロジェクト単位で知り合いのフリーランスと組んで仕事をすることも多いという。
「独立してフリーで働くことのメリットは、仕事のやりがいです」と栗原さんは話す。「仕事が来ないと暮らせないので、緊張感や充実感が全く違います。“生きている”って感じがしますね。仕事を取ってきて、その仕事をし、お客さんに満足していただき、リピーターになってもらえるのが嬉しいです」
栗原さんは大学で機械工学を専攻し、エンジニアとして日本アイ・ビー・エムに就職した。在籍中に米国マサチューセッツ工科大学(MIT)に留学し、コンピュータサイエンスを専攻した。その後、業界全体を見られること、英語力を生かせることを魅力に感じてガートナー ジャパンに転職、インダストリーアナリストとして10年間働いたのち独立した。
ガートナー ジャパンでの仕事内容は、IT業界の動向調査。レポートを作成し、顧客に買ってもらうというものだ。「この仕事は個人の能力で勝負するところがあり、フリーランスに近い部分もあります。結果的には独立する前の助走期間になりました」
2004年には弁理士試験に合格した。「独立するなら、収益源が3つくらい必要だと先輩から聞いていたからです」。栗原さんはITコンサルティング、弁理士、翻訳の3つを収益源とした。ただし、この3つはバラバラに成立しているものではない。「弁理士の仕事のうちソフトウェア特許関連はITコンサルティングに関係してきます。また、翻訳には自分の名前が売れるというPR効果があります」。収益源を分散させるとともに、それぞれの仕事に相乗効果を求めた。
フリーランスならではの工夫も必要だ。栗原さんは休みが取りにくいことや、忙しいときと暇なときの差が激しいことを実感している。後者を解決するためには、仕事で忙しい時にも営業活動を欠かさないことだという。「そうすれば、忙しかった時期の後にぽっかり暇になることなく、仕事が途切れませんから」
独立してから労働時間が長くなり、楽しみのために本を読む時間がなくなってしまったのが辛いという栗原さん。「健康に気をつけることも大事ですし、これから仕事が来なかったらどうしよう、という漠然とした不安にとらわれがちなので、それに耐える精神力も必要です。とはいえ、座右の銘『稼ぐに追いつく貧乏なし』のように、頑張っていればなんとかなると思っています」と前向きだ。
独立を考えている会社勤めの人には「まず与えられた仕事をきちんとやって、そのうち何パーセントが会社の看板による評価で、何パーセントが自分の実力なのかきちんと見極めること。心構えとしては、人に頼らず、自分で責任を取ることが大事です」とアドバイスする。
栗原さんは自宅の近所にオフィスを借りている。同業のフリーランスにはノートPC1台だけでどこでも仕事をする人もいるが、弁理士の仕事で守秘義務のある書類を扱うこと、自宅にいるとつい飼い猫と遊んでしまうこともあり、主にオフィスで仕事をするというスタイルを選んだ。ただし、オフィス以外にも自宅などでも仕事をしており、作業ファイルの同期は欠かせない。
ファイルの同期には、ディスクスペースをASP形式で提供しているジャストシステムの「インターネットディスク」を利用している。「簡単にファイルの同期が取れるので、モバイルワーカーには絶対お勧めです」。携帯電話はソフトバンクのスマートフォン「X01HT」を使っている。「4smartPhone.net」で住所録などを同期する。
オフィスの机には2台のディスプレイが並んでいる。本誌でも紹介したマルチディスプレイ(2006年10月30日の記事参照)だ。「便利に使っていますよ。翻訳のとき、原文と日本語訳を別々に表示できたのがよかったです」
「キーボードと椅子は良いものを使うべきです」と断言する栗原さんは、キーボードは東プレの「Realforce」、椅子は岡村製作所の「コンテッサ」を利用している。
ノートPCにカバーをかけるのが好きではなく、そのまま持ち歩きたいからという理由で、愛用するのは丈夫さと軽さに定評のあるドイツのメーカー、リモワのアタッシュケースだ。「ゼロハリバートンなども候補に入れ、かなり見て歩いて決めました。ゼロハリのものよりもサイズが大きめで、やや軽いところが気に入っています」
栗原さんは1日のうち午前中を情報収集の時間にあてる。だいたい1時間をブログ、1時間を雑誌やメディア系Webサイトを読む。定期購読している雑誌は、「日経コンピュータ」「日経エレクトロニクス」「Harvard Business Review(日本語版・英語版ともに)」「McKinsey Quarterly」、MITの卒業生に送られてくる「MIT Technology Review」だ。
栗原さんの運営するブログ「栗原潔のテクノロジー時評Ver2」については、「大きなニュースがあればすぐ反応のエントリを書くこともありますし、アイデアだけを書いて下書き状態にしておき、あとで記事化して公開することも多いです」
「待ち時間に携帯から見るなど、ブログはこまめにチェックしています。炎上していないかどうか気になりますから(笑)。炎上を避けるには、読む人がカチンとくることを書かないことでしょうね。ネガティブなことを書くにも書き方がありますから」
定期的に読んでいるブログは20〜30程度で、米国のフリーランスのアナリスト・コンサルタントのものが多い。「1つ例を挙げるなら、ディオン・ヒンチクリフ氏のブログ。英語圏には、日本と比較して充実した内容のブログが多いです。大手メディアとは違うニュースの見方など、勉強になりますね」
「私のような仕事をするなら、英語力があるかどうかで手に入れられる情報に大きな違いが出るでしょう」と話す栗原さんは、中学時代に熱心な英語の先生に出会ったことがきっかけで英語に興味を持つようになったという。「洋楽や映画をヒアリングできたらカッコいいだろうな、とも思いました」
高校時代には松本道弘氏の書籍「速読の英語」に出会い、感銘を受けた。「英語を逐一日本語に変換して考えず、速読して全体の流れをつかむべき、と説いた本です。影響されて学生時代はNewsweekを読んでいました。就職してIT業界で働くようになってからは、いつかは米国の大学で情報工学を学びたいと思っていたので、願いがかなった留学時代には人生で一番勉強しました」
2006年5月に出版された訳書「ライフサイクル・イノベーション」については、「この本の著者のジェフリー・ムーア氏は、今年で61歳なんですよ。その年齢でこの本を書くエネルギーはすごいです。私ももうトシかなと思うこともありますが、まだまだいける、という気持ちになりましたね」と力づけられた様子だった。
お名前 | 栗原潔(くりはら・きよし) |
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経歴 | 日本アイ・ビー・エム、ガートナー ジャパンを経て2005年に開業。テックバイザージェイピーの代表として、ITコンサルタント、弁理士、翻訳家として多様な分野で活動。 |
PC | 自作AT機(Pentium4/3.2GHz)×2台、Thinkpad X60s、モバイルギアII |
携帯電話/PDA(データ通信カードを含む) | ソフトバンク X01HT、ソフトバンク コネクトカード |
デジタルカメラ | Lumix DMC-FZ5、FinePix F30 |
ブラウザ | Internet Explorer (Firefoxに移行中) |
収集ツール(RSSリーダーなど) | bloglines |
メールクライアント | Outlook、Thunderbird |
インスタントメッセンジャー | Google Talk、MSNメッセンジャー |
ファイル整理ツール(デスクトップ検索を含む) | Googleデスクトップ |
バックアップツール | ジャストシステムのインターネットディスク |
検索サイト | Google、テクノラティ |
Webメール | hotmail、Gmail |
ブログ | さくらのブログ |
SNS | mixi(ほとんど使ってません) |
ソーシャルブックマーキング | del.icio.us(あまり使ってません) |
Wiki | Wikipedia(主に英語版) |
影響を受けた人/本/Webサイト | いろいろありますが、山形浩生氏のおそるべき仕事量には刺激を受けます |
座右の銘 | 「稼ぐに追いつく貧乏なし」 |
手帳/ノート | 無印良品、ダイソー |
ペン | 気にせず、もらいもの中心 |
その他小物(ICレコーダ、ポストイットなど) | オリンパスのV-50 |
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