「ネットで休職をチャンスに変える」小室淑恵さん達人の仕事術

「ワーク・ライフバランス」代表の小室淑恵さんは、育児や介護などで会社を休職している人のためのオンラインサービスを提供している。ネットを使って休業者と上司のコミュニケーションを促進するには、ちょっとした秘訣があるそうだ。

» 2006年09月22日 00時30分 公開
[吉田有子,ITmedia]

 現在30歳前後となる就職氷河期世代は、不況の影響で正社員採用が絞りこまれていた世代で、長時間労働やメンタルヘルスについて悩みを持つ人が多い。「仕事と生活のバランス」について考えている人は多いだろう。特に女性の場合は、出産するかしないか、出産したら育児と仕事を両立できるか、悩みは尽きない。現在は仕事一筋の男性でも、家族と接する時間をもっと増やしたいと思ったり、育児休業の取得を検討している人もいるだろう。

 小室淑恵(よしえ)さんは、就職氷河期世代の1975年生まれで、その名もずばり「ワーク・ライフバランス」という名前の企業の代表だ。1999年に資生堂に入社し、2000年に入社2年目で社内ベンチャーとして、インターネットを利用した育児休業者の職場復帰支援サービス事業「wiwiw」(ウィウィ)を立ち上げた。

 2003年に結婚したが、結婚直後に夫が米国にMBA留学したため、2年間の日本・米国間での遠距離結婚生活を経験した。「当時、Skypeがとても役に立ちました。私は夜中の2時、夫はお昼の時間にいつも会話していたんですよ。Skypeが無かったら国際電話代がいくらになったか……想像すると怖いですね(笑)」

 2005年に資生堂を退社後、ワーク・ライフバランスを設立。wiwiwの運営を行っていた頃にニーズを感じていた、介護やうつ病などの休業者にも対応した復帰支援プログラムも加え、新サービス「armo」(アルモ)を開発した。

 armoでは、eラーニングのプロシーズ、保育の最大手ポピンズ・コーポレーションと提携して、休業中に40講座以上のeラーニング講座を受講でき、復帰後のワーキングマザーには低価格で保育サービスを提供する。「休業期間はキャリアブランク」という常識を覆し、「休業期間はブラッシュアップ(能力を磨きあげる)期間」という概念を広めている。

armoのトップページ

 2006年4月に長男を出産した小室さんは、現在は子育てをしながら会社を経営し、armoの運営に加えて、企業内託児所の導入など企業のワーク・ライフバランスに関する取り組みに対してコンサルティングを行っている。

上司と休業者とのメール、促進の秘訣は

 小室さんは、仕事の場にワークライフバランスという考え方を根付かせるのに、ITは欠かせないものだと考えている。仕事にITを使うといってもいろいろな方法があるが、「育児や介護・うつ病などで一時的に職場を離れても、在宅から社会や職場とつながりコミュニケーションが図れ、スムーズに職場に戻ることができる弾力ある社会の実現にはITが不可欠なんです」という。

 armoは、上司と育児休業者がコミュニケーションをとるために、定期的にメールをやり取りする仕組みを提供している。最初は、上司に「育児休業者に職場の状況を定期的にメールで知らせてください」とお願いしていた。しかし、それだけだと上司は「育児休業者にどんなことを書いていいのか分からない」と迷ってしまい、結果なかなか情報交換がされなかったという。

 そこで、「そろそろハイハイを始めたころでしょうか?」など上司が迷わずに書き出せるように、育児休業者の子ども状況に合わせたメールのひな形も添えたリマインドメールを送ることにしたところ、ほとんどの上司がメールを出すようになった。休業者も子どもの写真を添付するなどして、状況を積極的に報告するようになった。このような上司とのコミュニケーションがあることで、復帰後の離職率が4分の1に減った企業もあったそうだ。

 「人間の心理として、よく知っていることにはコミットするし、知らないことからは距離を置いてしまうものです。こうして子供についてメールのやりとりをしていると、上司は復帰後の従業員が子供を背負って働いていることが実感として分かるようになり、自然に事情を配慮した対応を取るようになりますし、職場のほかのメンバーも上司に倣うようになります。メールってローテクなだけにどんな状況でも使える情報交換ツールとして奥が深いですよ」

1日の仕事を、メールで宣言

 小室さんの会社では朝、スタッフはグループリーダーにその日にする仕事をタイムスケジュールとともに宣言し、夜退社前に、宣言に対してどこまで仕事が終わったのかを報告する。

 これは、小室さんが出産で職場を離れる際に、社員の仕事を把握するために始めた方法だが、思った以上の成果が上がったので、退院後も現在までずっと続けている。それぞれが、自分はいつ何をするつもりかを宣言することによって、本来する予定だった仕事と突発的に入ってきた仕事を明らかにでき「何をしたかよく分からないうちに1日が終わってしまった」ということが起こらない。グループリーダーにとっても、仕事の割り振りや進捗の管理がしやすい。

 「こうして各自が宣言して計画的に仕事を進めていることが可視化されることで、上司も思いつきで仕事を振ってしまうということが減るんですよ(笑)。実は上司を改革する方法なのかもしれませんね。上司に突発的な仕事ばかり振られて困っている人は、ぜひ毎朝仕事をメールで宣言されることをお薦めします(笑)」

子供を育てながら仕事をする小室さん
愛用のDynabook SS

社会起業家のブログを読む

 そんな小室さんが愛用しているPCは、「もう8代目か9代目なんですが、Dynabook一筋なんです」という東芝のDynabook SS。これ1台ですべての仕事をこなし、出産の時には病院に持ち込み、陣痛の合間にブログをアップした。「24時間一緒です。どんな時にも持っていくし、ないと不安になります」

 情報収集には、「ワークライフバランス」や「次世代育成法」など、仕事関連で気になるキーワードをGoogleアラートに登録している。また、ブログやSNSから、子育て中の人が書いているブログや、そういった人が集まるネットコミュニティを見つけて参加し、自社サービスの想定利用者の生の声を聴くことも大事にしている。

 また、社会起業家のブログを読むのが好きだという。例えば、両親が働いている場合、子供が病気になったときに誰が面倒を見て病院に連れていくかは頭の痛い問題だが、それを解決するために、病児保育のNPO「フローレンス」を立ち上げ、小室さんの親しい友人でもある駒崎弘樹代表に注目していて、彼のブログも読んでいるそうだ。

 小室さん自身もブログを書いている。「単なる日記ではなく、読んだ人に何か得るものがあるように、何か1つでもワークライフバランスに関する情報を盛り込めるようにしています」

 また、障害のある人などさまざまな人が読むことを考えて、言葉の選択には気をつけているという。「障害のある人も含めて人それぞれの事情を抱えて生活することが特別なことではないという社会を作るのが、この会社の目的です。だから言葉によって誰かを傷つけるようなことはないようにしています。これはブログに限らず、講演などでも同じですが」

 そのほか、NPOのためのブログポータル「Gaialog」にも注目している。「いままでNPOのサイトはバラバラに存在していました。ネットに強いスタッフの少ないNPOでは、SEO対策にも力を入れていないので、検索をかけても見つけにくく、素晴らしい活動をしているのに知られていないもったいない団体が多かったんです。こういうポータルサイトができたのは、NPOの活動を支援したいと考えている人にとってもメリットが多く、非常に画期的ですね」

米国での体験がきっかけ

 小室さんが現在の仕事を選んだきっかけはなんだろうか。

 日本女子大学に在学していた学生時代に、休学して米国に滞在し、住み込みでベビーシッターをした。その時にシングルマザーが、育児休業中にイーラーニングで勉強をして資格を取り、職位も給料も上がって職場に復帰していたことに衝撃を受け、それが現在の仕事のヒントになったという。

 「ワーク・ライフバランス支援事業というと、託児所などのリアルなサービスのニーズがまず高いですね。でも私はインターネットを利用して、新しい価値観を提供し、休業=ブランクという概念を覆し、むしろ休業=チャンスだというメッセージを伝えたいので、ワーク・ライフバランスの取れる日本社会実現に必須ツールとしてITにこだわってやっていきたいと思っています」

プロフィール
お名前 小室淑恵(こむろ・よしえ)
経歴 1975年東京生まれ。日本女子大学文学部卒業、1999年に資生堂に入社。2005年9月に資生堂を退社後、ワーク・ライフバランスを設立。
PC 東芝 Dynabook SS
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ブログ ワーク・ライフバランス 社長ブログ
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影響を受けた人/本/Webサイト 学生時代に米国で住み込みをしていた家のシングルマザーの女性。育児とキャリアを両立している姿に衝撃を受けた
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