チームの中で自分で立てた予定を守るには?【解決編】シゴトハック研究所

“みんなで共有している知識の表現形式”をスクリプトといいます。自分の仕事について、これを作成、共有することで、作業の進捗についてうまく理解してもらうことが可能になります。

» 2007年08月10日 11時38分 公開
[大橋悦夫,ITmedia]

今回の課題

 ペア・ワークの倦怠期を乗り切るには?

 コツ:「実績」から「スクリプト」を表明してもらう


 チームの中でメンバー同士が「予定」と「実績」を共有しあうようになれば、チームプロジェクトなどの進捗状況は、各メンバーが手に取るように把握できるはずです(6月15日の記事参照)。

 でも、ほかのメンバーが申告する「実績」は、初めのうちこそ物珍しく、注意を引くかもしれませんが、やがて流し読みするようになりがちです。もともと「他人の」仕事の実績であるため、仕事の進捗状況がどうであるかが見えにくくなるからです。

「分かる形」が「スクリプト」

 心理学用語に「スクリプト」という言葉があります。「スクリプト」とは、みんなで共有している知識の表現形式のことで、日常生活の中でよく経験する出来事は、多くの場合、一連の流れとして表現されます。

 例えば、医者へ行ったときの診察の受け方、という「スクリプト」があります。ざっと挙げると次のような流れになるでしょう。

  • 受付で名前を書く
  • 診察券と保険証を出す
  • 番号札を受け取る
  • 順番を待つ
  • 番号で呼ばれる
  • 診察室に入る
  • 診察を受ける
  • 注射を打たれる(オプション)
  • 診察料を支払う
  • 薬を処方してもらう
  • 帰宅する

 これは、ほとんどの人が経験的な知識として持っているものですから、例えば、小説の中に「主人公は病院に通っている」という記述を目にすれば、ここまで細かいことが書かれていなくても、主人公はどのような時間を過ごしているかがだいたい推測できます。「長い時間待たされた」という記述を読むだけでも、あまり楽しい気分ではなさそうだ、ということまで理解できます。レストランで料理を待っている時とは、全く違うからです。

 スクリプトがスクリプトとして機能するためには、

  1. 原則として時系列に沿っていること(過去のことよりも未来のことが先に出てくると混乱するため)
  2. 典型的な流れは、すでに知識として共有されていること

 などが挙げられます。病院にほとんど通ったことのない人には、「長い時間待たされてじりじりしていた」だけでは、意味が分かりにくいかもしれません。

メンバーの「実績」からメンバーに「進捗のスクリプト」を表明してもらう

 スクリプトの考え方を「チームで立てた予定を守る」という課題に適用してみましょう。具体的には、仕事の進捗状況について、自分の「予定」と「実績」をメンバー同士で共有する段階まできたら、早いうちに「実績」をもとにした「予定のスクリプト」を自分で頭に入れてしまい、メンバーにもそれを伝えるようにします。

 1日限りの実績は、たまたま体調がよかったとか、仕事が非常に簡単だったなどといった、その日限りの特殊事情が影響して、「予定のスクリプト」としては機能しないかもしれません。

 それでも人間というのは1週間や2週間では、行動パターンをそれほど大きく変わらないものです。ですから、10日前後の「実績」を集めれば、「予定のスクリプト」を作り上げることができるはずです。

 こうしてできあがった「予定のスクリプト」は、仕事についての典型的なパターンを有する、信頼性の高いものとなります。なぜなら、進捗の「あるべき姿」でもなければ「人に決められた予定」でもなく、ほかならぬ自分自身の「実績」が基になっているからです。それゆえ、スクリプト通りに仕事が進む可能性が非常に高いのです。

 つまりこのスクリプトは、チームのほかのメンバーにとっても信用に価するものといえます。メンバーのタスク処理の本質的な形だと見なすことができるのです。

 さらに、スクリプトは枝葉末節が削ぎ落とされた、典型的なポイントの流れですから、これを頭に入れておけば、他人の「実績」を読み込むのが格段に楽になります。お寿司屋さんに入ったことのある外国人と、入ったことのない外国人とでは、寿司屋での出来事を描写した記述を読んだとき、どれほど理解に違いがあるかを想像してみれば、このことはよく分かるでしょう。

 スクリプトのない状況ではどうしても、メンバーの「実績」をよくよく読み込まなければならず、それでも何をどう理解していいかも分からないことが出てきます。結果として、せっかくの「予定と実績」を見せてもらっても、的確なアドバイスやツッコミを入れることができなくなってしまうのです。

 そこで、スクリプトを頭に入れておくことで、このような問題に対応できるようになるわけです。

筆者:大橋悦夫

1974年、東京生まれ。ブログ「シゴタノ!仕事を楽しくする研究日誌」主宰。学生時代よりビジネス書を読みあさり、システム手帳の使い方やスケジュール管理の方法、情報整理のノウハウなどの仕事術を実践を通して研究。その後、ソフトウェアエンジニア、テクニカルライター、専門学校講師などを経て、現在は仕事のスピードアップ・効率アップのためのセミナーや研修を手がける。デジタリハリウッド講師。著書に『「手帳ブログ」のススメ』(翔泳社)『スピードハックス 仕事のスピードをいきなり3倍にする技術』『チームハックス 仕事のパフォーマンスを3倍に上げる技術』『そろそろ本気で継続力をモノにする!』、近著に『Life Hacks PRESS vol.2』『LIVE HACKS! 今を大切にして成果を5倍にする「時間畑の法則」』がある。


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