会議を懐疑する樋口健夫の「笑うアイデア、動かす発想」

「今度、次長から部長に昇格してもらうつもりだ」と社長に言われた筆者だったが、つい「今のまま、次長でいたいのですが」と応えてしまった──。

» 2007年09月13日 12時00分 公開
[樋口健夫,ITmedia]

 関係会社に出向した後のことだ。ある日、社長室に呼ばれた。

 「樋口君。これは内示の内示だが、今度、次長から部長に昇格してもらうつもりだ」と社長に言われた。「ありがとうございます」と応えた筆者だったが、つい「今のまま、次長でいたいのですが」と付け足してしまった。

 「何だって、部長への昇格を断るなんて聞いたことがないぞ」と社長。そりゃそうだろうが、筆者にも言い分があった。「部長になると、あの週1回の常務会と部長会議に出席しなければいけないでしょう。それが嫌なのです。特にあの常務会は、午後が丸々つぶれてしまうではありませんか。それでは現在の営業体制が保てません。客先に訪問する回数が減ります」と、自分でもばからしいと思いながらも言い切ってしまった。

 「うーん、まいったなあ。じゃあ分かった。君は常務会に出なくてもいいから、部長になってくれ。それならいいだろう」と社長が笑いながら言った。「了解しました。ありがとうございます」──。

会議の影響

 33年間の会社生活で、1番の苦手が会議だ。会議ほどうっとうしいものはなかった。次の日に会議があるというだけで、前日の夕食が不味くなった。新人の時は、会議のかしこまった雰囲気が嫌だった。何年か営業職にいると、すぐに会議の時間と顧客に費やしている時間を天秤にかけたものである。会議が終わった時に「この内容でこんなに時間をかけるなら、絶対に顧客と話しているほうが会社にとっても有意義だった」と考えてしまうのだ。

 特に筆者は、顧客への足を運ぶ回数を増やさなければ新しい注文は取れないと信じていた。足を運ばなければ、今までの問題点も分からないし、競争相手が忍び込んでいるのも感知できない。顧客から「そんなに毎日来るなら、ここにあなたの机を置いた方がいいでしょう」と、言われることを誇りに思っていた。訪問回数が減ると、顧客との親密度に影響が出るからである。

 「1回や2回の会議で訪問回数に影響があるのか」というが、もちろん1回や2回程度、訪問回数が減ったら崩れてしまう信頼関係であれば情けないが、年がら年中の会議は訪問回数に与える影響は相当大きなものになるはずだ。

 本当に大切な顧客には毎日でも訪問する。会議の時間をぬってでも──である。しかし、会議の数と時間が増え続けると、本当に大切な顧客は回れても、若干グレードが落ちる“少し大切”な顧客への訪問や新規顧客への訪問は、簡単に削減されてしまう。

最大の問題は「社内都合」

 会議に拘束される最大の問題は、筆者を含めた営業マンたちを顧客の都合でなく、社内である自分たちの都合に合わせさせてしまうこと。部下が、電話で顧客と訪問予定の調整をしていて、「すみません、その日は会議がありまして」というのを聞くと悲しかった。

 英国の官僚制度を研究したC.N.パーキンソンが著した「パーキンソンの法則」の1つに、「議題の審議に要する時間は、その議題ついての予算に反比例する」という法則があった。巨大な国家的プロジェクトの承認が5分で終わり、会議に出てくるお茶菓子の承認に1時間かかるというものだ。

 筆者は、いかなる企業でも積極的にコントロールしなければ、会議は自己増殖していくと考えている。特に大きな企業ほど会議は増えて、仕事は会議で埋め尽くされてしまうことになる。会議は上役が開くことを決定するため、上役が多い会社は会議の数が増える傾向にある。また、一度でも開かれた会議は尾を引く。黙っていると、月例会議でありながら翌週に「フォローアップ会議」「緊急対策会議」「特別開催」「全員参加会議」などという名前にカムフラージュして同じ種類の会議が開かれることも多い。

 通常は「何かをするための会議」や「何かをした後の会議」であるが、会議が多くなると、「会議をするための会議」や「会議をした後の会議」へと変容する。そのうち、「会議をしていない」「会議が予定に入っていない」などとと、不安を感じる「会議依存症候群」が増えてくる。本業よりも会議が重視されれば、当然その会社は自滅の道を歩むことになるだろう。

 会議が増えていくと1日中会議するハメになる。ほかのことがまったくできなくなるわけだ。営業マンを終日会議に閉じ込めておいて、会議のアジェンダが「顧客拡大策」だと、とても悲しく感じる。こうしたことを実際に何回も経験したのだ。筆者が会議を開く立場に就いたとき、絶対条件として自分で決めたのは会議時間の厳守だった。特に会議の終わる時間を設定して、それに合わせて議事を進めることにしていた(9月7日の記事参照)。「会議を懐疑に考えて、回避していた」のは紛れもない事実ではあるが。

今回の教訓

社内都合を優先する会社、心当たりありませんか──。


著者紹介 樋口健夫(ひぐち・たけお)

1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「できる人のノート術」(PHP文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちら

「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう」について

 この原書「100 Things to Do Before You Die」(邦題:死ぬまでにする100のこと)は英国でのベストセラーです。筆者は英ヒースロー空港で入手しました。帰路の機内で読み、あまりの面白さに帰国するや英国の出版社に連絡を取ったものです。この本を日本で出版させて欲しい──。そして、技術評論社での出版が決まったのです。

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