レビュー
» 2007年10月02日 09時00分 UPDATE

5分で読むビジネス書:『ティッピング・ポイント』──人を動かすための3つの原則

ある1つのブランド商品の人気に火が付く“きっかけ”は何だったのか。ビジネスでたびたび起こる、急激かつドラマチックに方向を変える非直線的な現象“ティッピング・ポイント”を読み解く。

[大橋悦夫,ITmedia]
表紙

マルコム グラッドウェル『ティッピング・ポイント』(飛鳥新社刊)

 ウイルスが広がっていくときも、倍また倍に増えていき、最終的には1枚の紙を50回折り畳むと太陽にまで達するのと同じように天文学的な値になる。人間はこの種の発展に困惑をおぼえる。なぜなら、原因に比べて結果が桁外れに大きいからである。

 感染の威力を正しく理解するには、この原因と結果を比例させて考える習慣をまず捨てなければならない。大きな変化はときに小さな出来事に由来し、ときとしてその変化はきわめてすばやく生じることがある。この可能性に自分自身をならしていく必要がある。(p.23)


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 2000年3月刊行の本書だが、7年を経た今でも、その内容はいささかも色あせるところはなく、むしろ読み進めながら、身の回りの事例と重ね合わせることで、「これもまたティッピング・ポイントといえるかもしれない」といった、単なる解釈を超えた深い理解が促されるはずだ。

 そもそも、ティッピング・ポイントとは何か。字義通りに解釈すれば、「傾く(tipping)点(point)」ということになる。例えば、次のようなものがティッピング・ポイントだ。

  • ある1つのブランド商品の人気に火が付くきっかけとなる出来事
  • 伝染病が爆発的に蔓延するきっかけとなるちょっとした変化
  • 1984年に発売されたファクシミリがその3年後の1987年に達成した100万台という販売実績

 どうすれば自社商品を多くの人に知ってもらえるか、どうすれば自分の仕事で思い通りの成果を出せるようになるか、などの課題を抱えているとき、そこには自然と「○○をすれば、××になる」という法則性が求められることになる。

 別の側面から考えてみよう。「訳者あとがき」には次のような一節がある。

 「(ティッピング・ポイントとは)ある力を加えれば──あるいは力を抜けば──一定したリズムで予測可能に変化するような直線的な現象ではない。それは急激かつドラマチックに方向を変えるような現象であり、非直線的な現象なのだ」

 まず、「直線的な現象」とは、先述したような「○○をすれば、××になる」という法則性に則った、いってみれば非現実的ともいえる事象ということになるだろう。「セオリー通りの」と表現されるところのものである。

 一方、「非直線的な現象」は、冒頭の引用にある通り、「○○をしても、到底にはならないだろう」あるいは「○○をすれば、××になるのは当然だ」といった常識や習慣の壁を突き抜ける力を持った事象である。現実には「○○をすると、なぜかになる」という、論理的に説明するのが困難な法則性を突きつけられる状態に陥ることとなる。別の言い方をすれば、再現性の低い現象として映るはずだ。

 そんなつかみどころのないティッピング・ポイントだが、本書では次の3つの原則に分けて、ふんだんな事例とともに解説している。

  1. 少数者の法則
  2. 粘りの要素
  3. 背景の力

 例えば、最初はファックスを使う人など限られていただろう。それが、ある時点を境に一気に普及し始めるのには、どんな要因が絡んでいるのか──という事例をもとにこの3つの原則を当てはめてみる。

 まず、ファックスが便利な道具であるから、という以上に、人にその便利さを伝えるのが得意な、あるいはその労を厭わないという特別な能力を持った人の手に渡るかどうかがカギとなる。逆にいえば、そういった広げる余地の少ない人ばかりが使っていても、ファックスはいっこうに普及しないだろう。

 また、どんなに便利さをアピールされたとしても、それが簡単に忘れられてしまうようでは拡散は期待できない。それゆえ、「便利である」というメッセージに強い印象を添えて、「頭にこびりついて離れなくなる」ようにする必要がある。本書の言葉を借りれば「記憶に粘りつく」ようにするわけだ。

BOOK DATA
タイトル: ティッピング・ポイント
著者: マルコム グラッドウェル著
出版元: 飛鳥新社刊
価格: 1785円
読書環境: △書斎でじっくり
◎カフェでまったり
×通勤でさらっと
こんな人にお勧め: どうしてあの人ばかりがいつもうまくいくのだろうか、と嘆いている人。

 さらに、「人間は自分で思っている以上に環境に敏感である」ため、「○○をすれば、××になる」という常識、すなわち当たり前のように存在している環境を否定することは、変化のきっかけとなり得るだろう。

 これらの原則は、非直線的な現象であるティッピング・ポイントを再現可能なものに変えるためのヒントとなるはずだ。特に、効率よく仕事をしていく上では、一緒に仕事をする仲間、あるいは価値を提供する相手が持つ常識や習慣といった障害をうまく乗り越えて、相手をいかに動かす(tipする)かが問われることになる。

 そういう意味で本書は、人を動かすためのガイドとしても役に立つだろう。

 なお、「特定の商品やサービス、あるいはトレンドなど身近なもので、ある時を境に爆発的に広がったものについて、そのティッピング・ポイントを3つの原則に当てはめながら考えてみる」といったワークは、本書の理解を深めるだけでなく、実践する力を養う上で有効だろう。

 ※注:今回ご紹介した『ティッピング・ポイント』は、ハードカバーですが、同内容の文庫版『なぜあの商品は急に売れ出したのか―口コミ感染の法則』も出版されています。

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