その2 「自分を低く評価」してやる気をくじくやる気をくじく、8つの方法

やる気は実はくじかれている──。8つの、やる気をくじく方法をマスターして、自分のやる気をコントロールしてみよう。1つ目のくじき方「高すぎる目標」に続き、2つ目のくじき方を紹介します。

» 2007年11月12日 17時13分 公開
[平本相武(構成:房野麻子),ITmedia]

 「やる気がない」ではなく、「やる気はくじかれている」と、まずは考えてみましょう。ではどんなことがやる気をくじいているのか。第1回の「高すぎる目標」は、やる気をくじくに続き、2つ目の“やる気のくじき方”をご紹介します。

2──「自分を低く評価する」ことは、やる気をくじく

 やる気をくじく方法の2つ目は、自分を低く評価することです。自分のできていないところ、悪いところ、ダメなところばかり意識して否定していくと、やる気がどんどんくじけていきます。

 もちろん、中には自分のダメ出しをされればされるほど、やる気が出る人がいます。でも、そんな人は私の経験上、多くて5人に1人、おそらく10人に1人です。「お前、ダメだろ。そうじゃないだろ、こうじゃないか!」みたいな言われ方をすると、普通は嫌な気分になるはずなんですが、そういう人は「なんだかムカついて、やる気になってきました!」となります。でも、そんな人はごくわずかで、大抵の人はダメ出しをされると、やる気をなくします。

 ここで、心理学について少々突っ込んだ話をします。心理学は物理学と徹底的に違うところがあるということです。

 例えば、工場のラインがあったとしてください。入り口から原料が入って、工程1、工程2、工程3……と工程が過ぎていって、最後の出口で商品が完成するというラインです。あるときラインが止まったとします。どうするでしょうか。まず、どこで止まっているかを見つけますね。ここの工程が悪いんだなと、ダメなところを探します。でも、悪くなっていないところは放っておきますね。ダメなところが1カ所だったら1カ所、2カ所だったら2カ所、悪いところをまず見つけます。これがステップ1だとしたら、ステップ2でそこを直します。そうすると、ラインが動いてOK──と、物理学はこういう発想をします。PCでも同じです。壊れているとなったら、悪い部分を探して、故障したパーツを直すなり変えるなりしなくてはなりません。

 ところが、心理学の場合、こうはいきません。例えば、あなたの妻が、あなたにこういったとします。「あなたは仕事をがんばっているし、ルックスもいいし、子供の面倒も良く見る。でも、ただ1つだけ嫌なところがあって、冷たいところが嫌だ」と。「他は全部いいんだけど、冷たいところだけが嫌だ」、と言ったとします。

 この場合、物理学の原理に基づいて対処しようとすると、ステップ1で、ダメなところ、つまり冷たいところを見つけます。ステップ2でそこを直します。ただ直せといっても分からないので、いろいろと冷たいところを挙げていきます。例えば「あなたは家に帰ってきたら、物を置きっぱなしにするし、私が具合が悪いときに看病もしてくれないし、家事を手伝ってくれることもない」などと、冷たいところを全部挙げていきます。何項目か挙がったので、「この冷たいところを直して」と言われたら、どんな気持ちになるでしょうか。

平本 冷たいところをいちいち上げられて、直してと言われたら、どんな気持ちですか?

斎藤 嫌な気持ちになりますね。

平本 そこで、「そうやって、あなたは言っても聞く耳を持たない。そういうところが冷たいの」とかなんとか言って、「冷たい、冷たい・・・」、と言われ続けたらどうですか?

斎藤 すべて否定されたような気持ちになりますね。

平本 「というふうに、私の言うことを誤解することが冷たい証拠よ」と、延々と「冷たい」と言われて、とにかく冷たいところを見つけて正さないといけないとなったら、どうですか。正されますか?

斎藤 正されないですね(笑)

平本 そうですよね。心理学の原理は、物理学と反対です。ダメなところを見つけて正そうとすると、かえってダメなところが増えてくるんです。物理学が客観の世界なのに対して、心理学は主観の世界なので、冷たいところが1つ見つかると、「なんか、この人冷たいところばっかりだ」というように見えてくる。実は優しいところがいっぱいあるにも関わらず、挙動が全部冷たく見えてくるんです。

斎藤 ダメなところばっかりになるんですね。

平本 そうです。認知する側もそうだし、受け手の方も、「そうか、オレは冷たいんだ」と思うと、「ここも冷たい、あそこも冷たい」、と自分でもそう思ってしまうんです。自己認知ですね。「そうだよ、どうせオレは冷たい人間だよ」と思って、冷たい部分を自分でも探してしまうようになります。人に冷たいと思われているし、自分でも冷たいと思っているから、「いいよ、どうせオレは冷たくて」と思って、ヤケになってさらに冷たくなっていきます。

 暴力を繰り返す人はこれと同じようなパターンになっている場合が多いんです。「あなたが暴力を振るうのが嫌なの。いつも暴力を振るって!」と言われるので、「うるせえ!」といって暴力を振るうんですね。「だから、そうやって暴力を振るうのが嫌なの!」「うるせえ!」みたいに、何度も言われて暴力を振るうようになるんです。暴力を振るわないことがないわけではないんだけど、暴力ばかり振るうと言われて嫌な気持ちになって、また暴力を振るって……と悪循環になるんです。


 このように、人からの評価で自分を低くしてしまう場合もあるし、自分自身でやってしまう場合もあります。どちらにしても、自分を低く評価すると、どんどんやる気がくじけます。しかも、自分で追い込んでしまうのが常です。例えば「オレはのろまだ」と自分を評価したとすると、「そういえば、昨日のあれも遅かった。あの報告書も遅れた。あれも課長に怒られたし、これも失敗した。オレはのろまだ」と自分で自分をますます低く評価してしまいます。そうすると、だんだんやる気がなくなっていきます。

 物理学的な考え方だと、仕事ができないのであれば、どこができないかを見つけて、できるようにすればいいんですが、“僕は仕事ができない”と評価してしまうと、あれもできない、これもできない、となって、どんどんできなくなっていくのです。

 では、どうすればいいのでしょうか。よくある話ですが、「60点しか取れない」じゃなくて「60点も取れた」という感じで、同じものを「しか」じゃなくて、「も」で捉えるようにしましょう。また、苦手なこと、ダメなことよりも、得意なところに目を向けましょう。例えば、算数が苦手な子供だったら、「なんで算数ができないのかな。算数を直しましょう」となると、もちろんそれでがんばる子もいるけれど、落ち込んでできなくなる子もいます。中には、「国語なんかできたって、あなた、算数もできなきゃ」みたいなことをいうお母さんもいます。そうすると、国語までできなくなってしまいます。

 そうではなくて、「国語はできるんだね」とか、「サッカーが得意なんだ、得点王なんだってね。そんなにできるんだったら、きっと算数もできるかもしれないね」というと、その子は一気に算数ができるようになるのです。

 できているところに意識を向けるのが物理学との違いです。先ほどの工場のラインの例えのように、物理学はできているところに意識を向けても仕方がないので、できていないところに意識を向けます。心理学は、できているとことに意識を向けます。しかし、できているところに意識を向けるだけでは、ダメなところが直らないことがあります。なので、直そうという気にさせるのですが、そのときの言い方に気をつけてほしいのです。

「Yes、But」ではなく「Yes、And」でつなぐ

平本 キミはこれがいいね、これもできているね、と褒められたあとに、「だけどね……」と言われると、どうですか?

斎藤 なんか、結局悪い方に目が向いてしまいます。

平本 そうですよね。例えば奥さんが「ウチのダンナは優しいし、ルックスもいいし、稼ぎもいいし、がんばりや。だけどね……」と続くと、もうこれで終わっちゃうんです。だから「Yes、But」でつながないことです。「Yes、And」でつなぐんです。「ウチのダンナは優しいし、ルックスもいいし、稼ぎもいいし、がんばりや。そして、性格がもっと温かくなればもっといいよね」と、こう言われたら、どうですか?

斎藤 直そうという気になりますね。

平本 そうですよね。部下指導のときも同じです。「君は勤務態度はいいし、あの帳簿の付け方もいいし、○○もいいし……。そして、これもできたら、もっといいよね」と言われたら、直そうと思いますよね。

房野 簡単かな、という気になります。


 なぜ直そうという気になるかというと、言われた側がリソースフルな状態になるからです。いい気分になって、いろいろできる状態になる。なので、扱う課題が簡単に見えてくるのです。また、認められた、承認されたという気持ちになるので、「じゃあ、さらに承認されるためにやろう」という気になります。

 ただし、信頼関係が築かれていない人に話す場合は、Yes、Andも使わず、Yesだけにしてください。いつも散々ダメ出しばかりしてきたのだったら、2週間か3週間と期間を決めて、とにかく、この人のできているところだけを探します。そして、それを言ってあげる。本当にその人が「いいヤツだな」と見えてくるまで、そして向こうが心を開いてくれるまで、Yesだけ(できているところだけ)言ってほしいのです。関係が築けたなと思ったら、そろそろいいかな、ということで、Andを付けた話し方をします。「きみ、これがいいよね。そして、ここもできたら、もっといいよね」という感じです。

 もう1つ高度な方法を紹介しましょう。性格が冷たいという人の場合、性格は冷たいけれどほかのことが良ければ、ルックスがいいとか働き者だとか、違う分野で良いところを指摘する、というのが先ほど紹介した方法でした。もう1つの方法が、冷たい人に温かい人になってほしいんだったら、あえて温かいと思うところを探して指摘する方法です。

 例えば、ダンナさんのことを冷たいと思っている奥さんだとしたら、あえて夫の温かいと思うところを探します。「そういえば去年の暮れに私が風邪をひいたとき、あなたがタオルを取り替えてくれたのがとても温かいと思った」とか「おととしのクリスマスに、私が欲しがっていたピアスを覚えていてくれただけでも、すごく温かいと思った」という感じです。

 こう言われたらどう思うでしょうか。そういうことを、もっとやろうと思いませんか? 普通はこれと逆のことをしてしまうのです。「あなた、去年、私が風邪をひいたときには優しかったし、おととしはクリスマスにピアスのことを覚えていてくれたのに、最近は冷たい!」という感じで言ってしまいます。これを聞いた方は直そうと思いますか? なかなか思えませんね。

 「去年まではちゃんとこうしていたのに、今年はしていないじゃない。ここを直さなきゃダメでしょ!」っていう言い方は逆効果です。物理学と心理学が正反対だということがわかりますね。

 次回は3つ目の「やる気のくじき方」を紹介します。

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ピークパフォーマンス 代表取締役

平本相武(ひらもと あきお)

 1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は「成功するのに目標はいらない!」。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。


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