第3回 ロジックツリーは「現実」を反映しない新入社員がやってくる──専門知識を教える技術(2/5 ページ)

» 2008年03月07日 17時00分 公開
[開米瑞浩,ITmedia]

 その検討をする前に、図1の意味を確認しておきましょう。図1は、衝突事故の「原因」として少しでも可能性があるものを網羅的に列挙していく方式で作られています。「少しでも可能性のあるものを」ですから、例えば「自然現象−視界不良」のように、実際にはそうではなかったと分かっているものも含めて考えるわけです。

 そうすると、原因を「イージス艦・あたご」「漁船」「自然現象」の3つに大きく分解し、さらにそれを細分化していくことは一応理にかなっていそうです。このうち「あたご」と「漁船」はどちらも船ですから、「海上監視」「危険判断」「警告・回避動作」という3要素は両者に共通に適用できそうです(ちなみに本稿の主題ではありませんが参考までに書いておくと、マスコミ報道とは違って、実際の海上交通に携わる人の間では「漁船側の責任も重い」という声が大きいようですね)。

 さて、こうして分解を続けていけば、原因の可能性を洗い出すことができますし、その後ひとつひとつその「可能性」が現実に起きたのかどうかをチェックしていけば、原因究明はできそうです。

 では、この図1のようなロジックツリーができれば、「船舶の安全確保のための専門知識」を教えられるのでしょうか? いいえ、なかなかそういうわけにはいきません。

ロジックツリーは「現実」を表さない

 専門知識を教えるためには「ロジックツリー」だけでは間に合わない、という理由を端的に言うと、

  • 現実の世界はツリー構造ではない

 からです。どういうことか詳しく見てみましょう。図1から「あたごに問題」の枝をもっと詳しく分解したツリーを図2に掲載しました。

 「原因」の候補を図2ではA〜Fの6項目まで分解してあります。ざっと説明すると、「A 目視の失敗」は海上を肉眼(+双眼鏡など)で観察して船舶などを監視すること(の失敗)、「B レーダー監視の失敗」は同じく海上を航海用レーダーで監視すること(の失敗)です。「C 航路予想の失敗」は、他の船を発見した後でその航路を予想すること(の失敗)、「D 対応方針の失敗」は、衝突の危険が予想される場合にそれに対する対応方針を立てること(の失敗)です。E、Fについては省略します。

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