体のつらさは心に原因があるのかも!?──うつと向き合うことも大切ですドクトル・ピノコのプチ元気の薬

全10回の連載の最後は、ストレスについて考えてみる。心の問題は体にも大きな影響を持っているので、きちんと向き合って直していくことが大切。ストレスのない、健康的な生活のためにも自己点検は大事だし、時には医療の力も必要なのだ。

» 2008年07月10日 10時20分 公開
イラスト:本橋ゆうこ

 「ドクトル・ピノコのプチ元気の薬」もいよいよ最終回となりました! 思い起こせば初回の花粉症から始まり、頭痛や睡眠、めまいに高血圧、メタボなどなど、ビジネス世代によくある身近な体の問題を取り上げてきたこの連載。今日で最後なんて涙が出てきます。

 それにしても、いろいろな病気の原因を考えるにあたって、そのほとんどに当てはまるのが「ストレスは大敵」という事実。ストレスによって起こる頭痛や不眠症、めまい、高血圧……ほんとに何でもアリなんだわ。メンタル面でのトラブルによって人間の体のさまざまなバランスが崩れちゃうのね。

 精神的にも肉体的にもかなりタフだと自負している私も、その昔に救命救急センター配属になった3カ月間は、精神的に本当にまいりました。ここでの勤務は24時間態勢で泊まり込み。いつ鳴るか分からない救急搬送依頼のコールにおびえながら日々を過ごすという実にストイックな環境。週に1日だけ夜は家に帰れる日があるものの、基本的に休日はなく、昼夜関係なくずーっと救命センターに缶詰で、食事は3食コンビニ弁当か出前。夜間仮眠していても手には電話を握り締め、コールが鳴ったら瞬時に戦闘モードなわけです。

 というわけで、3カ月分の荷物をスーツケースに詰め込み、いざ救命センターに「入所」。最初の3日で自分の許容範囲を超えたというのに、さらなる試練が……。泊まり込みの女医部屋で寝食をともにする先輩女医がものすごーく意地悪だったんだもん! まったく女の世界はヤーね。昼も夜も先輩女医にネチネチ怒られ神経すり減らしながら働いていたところ、2カ月くらい頑張ったらついにうつ状態に。もう誰とも話したくないし、体はダルイし食欲もないし、なーんにも楽しくないし、理由もなく突然涙があふれてくる。かといって仕事を休むなんてわけには当然いかないので、症状は悪化するばかり。

 そんな時、すっかり忘れていた自分の誕生日にイジワル先輩女医がケーキを用意していてくれたのです。それがすごくうれしくて、「嫌なことを忘れて残り1カ月頑張ろう!!」という気になったのでした。意外に単純な私。ささいなきっかけで回復することもあるもんだねえ。そして最後の1カ月は記憶にないくらい死に物狂いで突っ走り、めでたく「出所」となったのです。3カ月ぶりのシャバの空気は本当においしかったなあ(泣)。

ストレスからくるうつ状態には注意

 まあ、それはさておき、どんな職場だってストレスは少なからずあるでしょ。まして上司からも部下からも挟み撃ちにされる世代あたりなんかは、ストレスがかからないわけがありません。「あー、もうやってられない!」 「仕事辞めてやる!」って憤慨していられるうちはまだいい方。さらにストレスが蓄積すると、怒る元気もなくなるようなうつ状態になってしまう恐れもあります。

 とはいえ、率直に言って、うつ病の診断は精神科以外の医者にとっては難しい! 極端な話、例えば頭痛があるとして、脳出血が原因ならCTを撮れば目に見えて病気が分かるわけですが、精神的ストレスからくる頭痛の場合、それが心の病だという証拠を目に見える形で見つけることはなかなか困難です。あー難しい。患者さんが自ら「精神が原因で頭が痛いです」って言うわけもないしなあ。

精神面からくる体のダメージにはきちんと対処しよう

 私もそうだけど、ほかの科を専門にしている医者の場合、精神疾患のごく一般的な知識はあるものの(国家試験で出るから一応は勉強したもんね)、専門的なことは分からないわけです。

 典型的なうつ病の症状としては「今まで楽しかったことが楽しくない」「すべて自分が悪いんだ」「死んでしまいたい」なんてことが教科書に載っているけど、最初からこんなに分かりやすい症状がすべてそろっている人のほうが少ないと思います。最初は体がだるい、疲れが取れない、ぐっすり眠れない、などビジネスパーソンなら誰でも一度は経験したことのあるような一般的な症状から始まることが多いのです。

 また、「仮面うつ病」といって、頭痛や肩こり、胃の痛み、息苦しさ、下痢や便秘など、一見精神的な病気とは考えにくいような体の症状が前面に出てしまう病態もあります。この場合、最初から精神科へ行く人はまずいないでしょ。多くの場合、まず内科や外科など、ほかの科を受診すると思います。しかし検査をしても特に異常はないと言われ、とりあえず薬が出たりして、でも症状は一向に治らない、なんてパターンも。

 私も自分が外来で患者さんを拝見する時には、常に精神的な病気が潜んでいないかを頭の隅に置くように心がけています。でもやはり精神科の専門医ではないから、正直細かいところは分からないのよね。「精神的なものからくる症状が疑わしいな」という場合には精神科や心療内科を受診してもらうよう勧めています。でもね、私自身もそうだと思うんだけど、「精神科」を受診するのってなんとなく勇気がいるというか、構えてしまいませんか?

 私も、冒頭でお話した救命センター勤務のときの症状は自分でも「うつっぽいな」とうすうす感じていたものの、やはり精神科を受診するところまでは至りませんでした。なんとなく「心療内科」のほうがハードルは低い印象があるの。これは私だけかしら。

うつも病気だからこそ治していこう。では、さらば!

 とはいえ、うつ病はまぎれもなく「病気」です。ちゃんと治療をしていけば治ります! 「心が弱いからこうなったんだ」 とか「気合が足りないからだ」 なんて、いきなり間違った自己判断をせず、一度精神科や心療内科の門をたたいてみてはどうでしょう。カウンセリングを受けるだけの軽い気持ちでも構いません。意外にも、いろいろな問題があっさり解決するかもしれません。

 そして、そうこう言っているうちにもう終わりの時間となってしまいました。あー、さびしい! 終わりたくない! また皆さんに会いたい! 男も欲しい!! 今後ともITmedia読者のビジネスマンの方たちが、元気にバリバリ仕事に遊びに活躍なさることを心より願っております。私もまた頑張ろー! ほな、さいならーーー!!!

ポイント

  • ストレスは万病のもと。メンタル面でのトラブルによって体のさまざまなバランスが崩れる恐れあり。
  • ストレスをためすぎるとうつ病を引き起こすことも。無理は禁物。
  • 頭痛や肩こり、胃の痛み、息苦しさ、下痢や便秘など、一見精神的な病気とは考えにくいような体の症状が前面に出てしまう「仮面うつ病」なんて病気もある。
  • 一人で悩まず、精神科や心療内科の門をたたいてみることも大切。カウンセリングだけでも効果あり。
  • 「ドクトル・ピノコのプチ元気の薬」はこれにて最終回! 今までご愛読ありがとうございました!!

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