以上、「肯定的なメッセージ」「制約のある自由」「同格のコミュニケーション」という環境がそろうと、人は「自分で考えて、行動する」ことが少しずつできるようになります。
当然ですが最初はなかなかうまく行きません。いいんです。うまく行かなくたって当たり前です。誰だって最初からなんでもできるはずがありません。それでも、「自分で考えて、行動する」ことを続けなければいけないのです。なぜなら、
からです。
前回でこの話を始めるとき、私は「正しいかどうかを判断する基準」を求める質問が多いことに驚いた、と書きました。それで分かったのは、「人に与えられた基準を守る」ということに慣れすぎてしまった人が意外に多いらしいということでした。
いや、ルールというのは大事なものですし、それを守ることが悪いわけではありません。しかし、それしかできないのでは困ります。「人に与えられた基準」はたいてい硬直化していくもので、必ず現実とのギャップが起きてしまうからです。
今回例に挙げた「選手とコーチ」の話にしても、仮にコーチが対戦相手を分析して完ぺきな作戦を与えて選手を試合に送り出したとしても、実戦では予想外のことが起こります。選手が自力で相手の変化に対応していけるようでなければ、勝ち抜くことはできません。
実際、「人に与えられた基準」を頼りにしていると、変化に弱くなるものです。営業先の会社で予想外の状況が起きると慌ててしまい、せっかくのチャンスを活かせない――そんなシーンを私は営業マンと同行した時に何度も見てきたので、「予定通りに行かないことをやたらに恐れる症候群」と名づけたぐらいです。仕事はコンピュータゲームではありませんから、攻略本の通りには行かないのです。
「ルール」に縛られるのに慣れてしまうと、「従うべきルール」がなくなったときには大変な不安を感じるものですが、だからといって「新たなルール」を求めるのはやめましょう。ルールではカバーできない領域は必ず存在します。
ことを通じてしか、不安が解消されることはありえません。そのために必要なのが今回書いた3つのポイント、「肯定的なメッセージ」「制約のある自由」「同格のコミュニケーション」の3点です。願わくば、「若手を教える」立場にある人には、これらを踏まえて指導をされることを期待したいものです。
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IT技術者の業務経験を通して「読解力・図解力」スキルの再教育の必要性を認識し、2003年からその著述・教育業務を開始。2008年は、「専門知識を教える技術」をメインテーマにして研修・コンサルティングを実施中。近著に『図解 大人の「説明力!」』
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