「自分で決める」ためには、当然その前に「自分で考える」ことが必要です。ところが、人間は「考えることがたくさんありすぎると思考停止」になりがちな生き物です。特に「自分で考える」ことに慣れていない人はそうなりがちなので、そんな人に考えさせるためには、ちょっとした仕掛けが必要です。それが第2のポイントとして書いた「制約のある自由」です。
ある野球チームの監督が、所属するピッチャーのK君に「打者の裏をかく投球術」を覚えさせようとしている。そのため、試合中にK君がベンチに居るとき、監督はよくこんな質問をする。
「お前なら次に速い球と遅い球、どっち投げる?」
「制約のない」自由な質問だったら、「お前なら次にどんな球投げる?」と聞くところです。こう聞かれたら、「どのコースに」「どんな球種で」「どんなスピードで」投げるか、と、3つも考えなければなりません。しかし「速い球と遅い球」のどちらかだけなら、考えることは1つで済みます。つまり「制約のある自由」というのは、こんなふうに「ある限られた選択肢の中から自由に選ぶ」タイプの設問のことを言います。
もちろん、ゆくゆくは「どんな球?」という完全に自由な質問でも考えられるようになってほしいのですが、最初から多くを望むのは無理があります。最初は二者択一から始めましょう。
ちなみに「制約」をかけるというのは要するに考える範囲を限定することですから、二者択一のほかにも「観察対象を限定する」という方法もあります。その例は次の項で紹介します。
第3のポイントは「同格のコミュニケーション」です。
これをイメージするために、前述の卓球大会でのコーチと選手の関係を思い出してみましょう。選手が負けて帰ってきたとき、コーチは選手に対して「どうして○○できないの?」という「叱責」をしていました。これでは同格のコミュニケーションにはなりません。ではどうすればよいかというと、例えばこんな質問をすることです。
ある卓球大会で予選リーグの初戦を落としてしまった選手に対して、そのコーチはこんな声をかけた。
「今の相手、バック側のスピードボールへの反応どうだった?」
ポイントは、「選手ができなかったことを聞く」のではなく、「対戦相手のほうに注意を向けさせる」ことです。そのために、「対戦相手の特徴についての単純な事実確認」の質問をしています。そうすると、
という関係ではなく
という関係になるため、「選手が自分で考える」という状態に持って行きやすいのです(図1)。
ちなみに、似て見えますがこれではちょっといけません。
「遅かったよね?」までつけてしまうと、選手が自分で考えることになりません。こんなふうに最初から答えを言ってしまうのが常態化すると、選手のほうも「教えてくれる」のが前提になってしまうわけです。
思考プロセスの一例を書くと、
といった展開になります。こういった思考プロセスを自力で切り開いていけるようになることが大事なので、手取り足取り何でも答えを教えてしまってはいけません。自分で考えさせるようにするためには、
のように視野を限定(これが「観察対象の限定」という制約にあたります)した上で、「どうだった?」と、具体的な評価から先は選手自身にまかせることが大事です。それで選手が評価を間違えたとしても、それは成長のために必要なプロセスであって、大いに歓迎すべきことなのです。
以上、スポーツの例で話をしてきましたが、ビジネスシーンにおいてもまったく同じ状況がよくあることは言うまでもありません。
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