体だけでなく言葉も心を変えます。「なぜ不況に?」「なぜ仕事ができない?」などと問いかけても落ち込むだけ。こんな時は「不況だからこそ何ができる?」「どうしたら楽しくできる?」と、問いかけを変えてしまいましょう。
心の状態は体、言葉、意識の3つを使い、自分で変えられます。
「よっしゃ!」などの掛け声を出す、とにかく笑ってみるなど、体を使った心のスイッチ切り替え術を解説しました。続いて言葉を使った切り替え方を見ていきましょう。
心の状態にマイナスの影響を与えるものに、体の疲れなどがあります。
睡眠不足になると気分がイライラしたり、めいったりします。だから、大変な時こそ、特に長期に渡る場合は、しっかり睡眠を取っておく必要があります。
また、疲れているから喧嘩っぱやくなる、ということもあるでしょう。すごく疲れて帰ってきた時に、普段だったら何でもないことなのに、妻からちょっとしたことを言われてプチッと切れてしまったりします。
そういう時は、「今日は疲れているから、感情が高ぶりやすいな」と気づくことが大事です。全く疲れないでいることは、現代社会ではほとんどありえないので、「今日はイライラしがちだから、リビングを避けておこう」というような対策も必要かもしれません。空腹や排便、のどの渇き、天候のしのぎやすさなども心の状態に影響を与えます。
また、薬物も心の状態に影響を与えます。
向精神性薬を中心とした不法ドラッグはもちろん、抗うつ剤や抗不安剤などの精神治療薬も心の状態に影響を与えます。例えば、「落ち込んで憂鬱なんです」といって、「うつなので抗うつ剤を飲みましょう」とドクターに処方されたとします。
坑うつ剤が効いて、生物学的に調子がよくなったと思っても、「どうしてダメなんだろう、何が悪いんだろう、なんで自分は上手くいかないんだろう、なんで同僚に抜かされて、こんな仕事もできないんだろう、なんで上司は分かってくれないんだろう」というような言葉が頭の中でずっと流れていたら、どんなに薬を飲んでも、また落ち込みます。
「先生、やっぱり落ち込みます」と言うと、「じゃあもっと強い薬にしましょう」となる。強い薬を飲んで、しばらくは調子がよくても、「自分は何をやっているんだ、いつまでたってもダメで……」という言葉が流れていたら、また落ち込んでしまいます。薬が身体的に影響して、不安が軽減されたりうつが緩和されたりすることは確かにありますが、頭の中に言葉が流れている限り、心の状態に影響を与えます。言葉は心の状態を変えることができるのです。
そして、カウンセリングや心理療法が必要とされるのが、この部分です。薬物療法が必要な人は確かにいます。しかし、薬物療法だけではダメな人もいっぱいいます。
例えば、今まで20年間、技術畑で研究ばかりやってきて、顧客とほとんどしゃべったことがない人が、45歳になって急に営業に回されると、「最初はできなくて当然だよ」と言われても、「なんで営業に回されたんだろう? なんでできないんだろう?」と頭に言葉がぐるぐる流れ、だんだん落ち込んでいくことがあります。薬でちょっと調子がよくなっても、スキルは急に上達しないので、「やっぱり才能がないんだ、自分はダメなんだ」といって落ち込む。これは体についての問題ではなくて、頭の中に流れる言葉の問題なのです。
頭の中で考えるという作業は、問いかけと答えの繰り返しです。
米国の内科医ディーパック・チョプラによると、人間は頭の中で7万個の単語を使って思考しているということですが、それが問いかけと答えです。そして、「本当に?」「今日は何時に行こう」「間に合うか、間に合わないか」「これに乗って大丈夫かな」「走らなきゃダメかな」「何を食べようかな」「サラダを取らなきゃダメかな」というような、どんな問いかけにも必ず、自分が当たり前だと思っている疑いのない“思い込み”が入っています。
例えば、「私ってなんてきれいなんだろう」という中には“私はきれい”という前提が含まれています。「私はなんてブスなんだろう」という中には“私はブス”という前提があるし、「自分はなんて仕事が遅いんだろう」という中には、“自分は仕事が遅い”という思い込みが入っています。「なんで彼らには私の実力が分からないんだろう」という中には、“私には実力があり、彼らは理解していない”という前提が入っています。この思い込みによって、心の状態は影響を受けます。
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