文具クリエイターとの出会いからISOT出展へ――スライド手帳は、こうして生まれた(後編)(1/2 ページ)

システム手帳を基本としながらも、2週間を一望できる独自のスライド機構が注目を集めるスライド手帳。ISOT 2013出展の裏には、ある文具クリエイターとの出会いがあった。

» 2013年10月07日 11時00分 公開
[舘神龍彦,Business Media 誠]

 満足できる手帳がない、ならば自分で作ってしまおう――。こうして佐川博樹氏が生み出したのが、2週間を一望できる独自のスライド機構が注目を集めるスライド手帳だ。

 この手帳が生まれるまでのプロセスを追った前編に続き、後編では佐川氏がアジア最大級の文具イベント「ISOT」への出展を決意した理由に迫った。

無料版とお試し版でアピール

 オンライン販売を開始したスライド手帳にとって最大の課題は、商品を知ってもらうことだ。大手文具メーカーとは異なり、潤沢な広告予算があるわけではない。雑誌取材もあったが、手帳シーズンと呼ばれる時期は短く、プロモーションは短期決戦になりがちだった。一方で、スライド手帳は日付記入式のリフィルであり、いつからでも使い始められるというメリットがある。これをアピールしない手はない。

 新しい製品は、実際に試してもらって好感を持たれれば、それが購入につながっていく。スライド手帳は“お試し施策”にも力を入れ、2種類のサンプルを作って配布することにした。

 1つは無料サンプル。これはリフィル5枚セットで送料80円のみの負担で手に入る。もう1つはお試し版で、4種類のリフィルを5枚ずつセットにしたもので価格は250円。ただし注文は1人1回のみとなっている。いずれもユーザーにその存在を知ってもらうための手段として実施しており、今も継続している。

角のカットは“ひょうたんから駒”

 製品自体も販売開始当初から改良され、より洗練されたものになっている。例えば、リフィルの左下部分にある角のカットがそれだ。

 市販の一部の綴じ手帳ではページの角にミシン目が入っており、三角形に手でカットできるようになっている。これは、しおりなしでも最新のページにアクセスできるようにするための工夫だ。

 佐川氏も、当初はリングの右側にセットされたリフィルの右下角をはさみでカットして使っていた。これで上記のミシン目と同じ効果が望めるからだ。しかしある日、まちがってリフィルの左下角をカットしてしまった。「しまった」と一瞬思った佐川氏だったが、次の瞬間に「これでいいんだ!」と気がついた。最初から左下角がカットされたリフィルはリングの右側にあるときにはカット部分が気にならない。そして左にスライドさせると、カット部分が外側に現れ、そのページが今週であることが分かる。かくして新たなアピールポイントが生まれた。

Photo スライド手帳はリフィルの左下角がカットされている。これで常に最新のページにアクセスできる

手帳総選挙をきっかけに、専門誌や販売店に進出

Photo 横浜・楽文堂の店頭では、他社のシステム手帳リフィルにまじってスライド手帳各タイプが置かれている

 スライド手帳は「手帳総選挙」というイベントがきっかけになって、大手量販店や専門誌との縁も生まれた。日本手帖の会によるこのイベントで、スライド手帳は3位入賞を果たした。イベント会場における来場者の投票の結果だ。

 これがさらに意外な結果につながった。まずイベント自体が東急ハンズ銀座店で形を変えて開催され、スライド手帳も店頭に登場することになった。さらに、首都圏4店舗(銀座、渋谷、新宿、池袋)と関西の2店舗(心斎橋、梅田)、そして博多での取り扱いが決まった。その後、掲載誌を見た名古屋の店舗からも問い合わせがあり、販売が決まったという。

 さらに文具専門誌「STATIONARY MAGAZINE」(えい出版社)にも取り上げられた。美しいビジュアルで知られる同誌に登場したことで、手帳好きとはちがう層にその存在を知られるようになったのだ。

「文具祭り」の運命的な出会い

 スライド手帳の快進撃は続き、2012年12月には「第三回文具祭り」に登場。佐川氏は、このイベントでスライド手帳のプレゼンテーションを行った。

 文具祭りは、渋谷の文具店つばめやの高木芳紀氏とお笑い芸人のだいたひかるさんが定期的に開催しているイベント。お台場のイベントスペース「東京カルチャーカルチャー」を舞台に、メーカーとユーザーが文房具についてプレゼンテーションを行う場だ。佐川氏はここで、ISOT出展のきっかけになるBeaHouseのアベダヰキ氏と出会った。アベ氏は「立つノートカバー」などでも知られる。

Photo 第3回文具祭りの様子。だいたひかるさんと渋谷の文具店「つばめや」が定期的に開催している文具イベント

 佐川氏とアベ氏は面識こそなかったものの、以前からTwitterでつながっていた。「スライド手帳の構造がとても革新的だったので好きになってしまい、勝手にリツィートして拡散してたんです。」(アベ氏)。その後、メッセージをやりとりするようになったという。

 文具祭りの日、開場前のやや早い時間に別々に到着した2人は、Twitterでお互いがその場にいることを知り合流。新しい文房具を開発していた2人は、開場前に早くも意気投合した。プレゼンの順番もアベ氏の次が佐川氏だったので、待ち時間にいろいろと話し込み、ISOTのことも話題にのぼった。その後、「『夢だったISOTに参加します!』とツィートをしたら『おめでとう』という返信が来たので『スライド手帳さんも一緒にISOT出ましょうよー\(^o^)/』と軽く誘ったら、本当に佐川さんはISOTに申し込んでしまったという感じです^^;」(アベ氏)ということらしい。

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