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» 2015年12月08日 08時00分 UPDATE

スピン経済の歩き方:東芝と化血研に共通する「名門意識のおごり」とは何か (1/4)

東芝が不正会計処理をめぐって、大きく揺れている。この問題について、各方面の有識者がさまざまな分析を行っているが、筆者の窪田氏が興味を示しているのは「名門意識のおごり」。その言葉の意味は……。

[窪田順生,ITmedia]

スピン経済の歩き方:

 日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。

 「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。

 そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。


 東芝がえらいことになっている。

 歴代社長3人が関わったとされる不正な会計処理をめぐって、証券取引等監視委員会が過去最高額になる73億7000万円の課徴金を突きつけたのだ。利益のかさ上げは2000億円を超え、歴代社長たちの刑事告発も囁(ささや)かれ始めている。

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 東芝といえば、『日経ビジネスオンライン』がスッパ抜くまで、米原発子会社の巨額減損を「隠蔽(いんぺい)」していた疑いをもちかけられ、11月下旬に室町正志社長が「不十分な開示姿勢を深くおわびしたい」と陳謝したばかり。当初は「不適切な会計処理」なんて表現であからさまに気をつかっていたメディアの論調もここにきてようやく「経営危機」が目立ち始めた。

 日本の「ものづくり」を象徴する名門企業の危機を専門家や有識者がさまざまな分析をしているが、なかでも興味深いのは40年代の東芝の姿と重ねる見方だ。

 昭和40年、東芝は創業以来最大の危機と呼ばれる経営難に直面した。そこで石川島播磨重工業の躍進に手腕を振るった土光敏夫氏を招き、再建に乗り出して見事V字回復を果たす。が、実は徹底的な合理化推進の裏で収益率が急速に悪化していたのである。この原因を当時の経済誌は以下のように分析している。

 「悪くいえばシェア第1主義だ。それが名門意識と相まって分不相応な投資となり、安値受注、安売りにつながった」(日経ビジネス1972年6月12日)

 確かに、今回も構造は似ている。リーマンショックでガクンと落ち込んだ業績の回復を急ぐあまり、歴代社長が当期利益主義のもとで予算の達成を強く要求。それに応えることのできぬ各部署が「利益のかさ上げ」を積み上げていった。つまり、利益第1主義に名門意識が相まって、「分相応な数字」を取り繕うことにつながったとも言えなくもない。

 個人的にも「名門意識」は重要なキーワードだと思っている。経営評論家・三鬼陽之助氏の40年代危機をテーマにした著書『東芝の悲劇』のなかでも、「名門意識からくるおごり」という指摘があるからだ。

 わりと有名なエピソードなのでご存じの方も多いかもしれないが、経団連会長も務めた石坂泰三氏が東芝社長だった時、友人のリコー創業者・市村清氏からある忠告をされたそうだ。

 ある日、市村氏が電気製品を購入しようとデパートの三越へ行ったら、店員がやたらと松下の製品ばかりをゴリ推しされたことをうけ、「東芝ももっとガツガツして、店員に売ってもらえるよう働きかけたらどうだろう」というアドバイスだ。石坂氏は「分かった」と頷(うなず)いたが、その後に営業に力を入れるわけでもなく、部下たちもまったく改善に乗り出す気配がない。その背景には東芝の「わが社の製品はナショナルに比較して優れているのだから、買わないほうが間違っている」という「おごり」があるというのだ。

yd_kubota1.jpg 証券取引等監視委員会による課徴金納付命令の勧告について(一部抜粋、出典:東芝)
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