アップルが「iPhoneロック解除」に応じることができない理由世界を読み解くニュース・サロン(3/7 ページ)

» 2016年02月24日 08時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

アップルは全面対決の姿勢

 アップルは当局に協力してiPhoneの暗号化データにアクセスできるようにすれば、わざとiPhoneに弱点を作ることになり、結果的に悪意あるハッカーなどの標的になってしまうとしている。つまり、アップルは全面対決の姿勢を見せたのである。

 ちなみにアップルなどIT企業が捜査当局にユーザー情報を提供するかどうかについては、2年ほど前のある出来事をきっかけに、ちょこちょこ議論になっていた。2年前にいったい何があったのか。

 実はアップルがFBIや政府の要請を拒否するのには、2013年にCIA(米中央情報局)元職員の内部告発者であるエドワード・スノーデンがNSA(米国家安全保障局)による世界的な監視活動を暴露した一件が背景にある。グーグル、マイクロソフト、フェイスブック、ヤフーといった大手企業に並んで、アップルもNSAの監視プログラムに協力していたことが判明しており、NSAは世界中の「電子メール、チャット、ビデオ、音声、写真、保存データ、送受信ファイル、ビデオ会議、標的の活動やログイン状況、ソーシャルネットワーク」などを思いのまま監視・閲覧することができた。

 この暴露によって、米政府にユーザーの個人情報を流していたアップルなどの民間企業側はバッシングを受け、ユーザーの信頼を完全に失う危機感を抱いた。また国際的にも自分たちの商品が利用されなくなるのではないかと恐れた。

 そして民間企業側の多くは政府機関と距離を置くようになり、アップルやグーグルは、個人データの暗号化を進めるなどセキュリティ機能の改善をアピールしてユーザーの信頼回復に乗り出した。

 アップルは2014年9月にリリースされたiOS8以降、すべての個人データを暗号化し、ユーザー個人がパスコードを入力しなければ誰もデータにアクセスできないようセキュリティを強化している。現在、ユーザーの携帯デバイスにあるデータはすべて厳重に暗号化されているために、アップル自身ですらデータを見ることはできない仕様になっている。

 つまり厳密に言うと、基本的にアップルはFBIにiPhoneユーザーのデータを提供したくてもできないのである。

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