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» 2016年03月09日 08時00分 UPDATE

人工知能は本当に仕事を奪うのか:“10年後になくなる職業”税理士に聞く 生き残るための生存戦略 (1/2)

人工知能の進化によって「10年後になくなる職業」とささやかれる会計士や税理士。コンピュータが得意な領域とされる仕事は今後本当に奪われるのだろうか。現場の税理士に今の潮流とこれからを聞く。

[鈴木亮平,ITmedia]

 「日本の労働人口の49%は、10年後に人工知能・ロボットに代替される可能性がある」――2015年12月、野村総合研究所(NRI)と英オックスフォード大学はこんな研究結果を発表した。テクノロジーが日々発達する中で「人間でなくてはできない」仕事が減っていく予感は、多くの人が感じていることだろう。

 「代替可能性が高い職業」として具体的に挙げられている中には、シンプルな現場作業従事者だけでなく、税理士や会計士、行政書士など、いわゆる士業といわれる職業も含まれている。知識や資格が必要な専門職として、社会的地位も高い職業が並ぶインパクトは強い。

 会計ソフトなどをはじめ、機械に代替されていくとされる士業は、近い将来本当になくなるのか。人工知能のさらなる発達で、コンピュータが「知識」と「ノウハウ」両方を身につけていった時、人間に残される仕事とは。

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人工知能を“アシスタント”にするために

 「税理士だけがこれから先も同じように働けるとは全く考えていない。むしろ、世の中の変化を考えれば、ここまで変わらずに続けてこられたことの方が不思議」

 都内で会計事務所を営む杉山靖彦税理士は、淡々とそう答える。

 早くからPCに親しみ、インターネットも黎明期から利用してきた杉山氏は、ITの世界のスピード感を自ら感じるべく、大学院卒業後に日本マイクロソフトで3年間勤め、その後税理士として独立した異色の経歴の持ち主だ。独立当初から積極的にITツールを活用してきた自身としては働き方に大きな変化はないと言うが、業界全体としては変化の潮流は感じているという。

 「昔は帳簿に記帳することは特殊能力だったが今はそうではない。もともと独占業務でもないし、会計ソフトの登場もあり、誰でもできる作業になった。記帳代行の部分に頼って収益を上げていた税理士は大変かもしれないが、どちらかと言えばテクノロジーが進化したことで生産性が上がった恩恵の方が大きいのでは」(杉山氏)

photo 杉山靖彦氏

 税理士の役割の1つは、顧客の帳簿を定期的にチェックし、問題点や懸念点があれば指摘することだが、こうした部分もテクノロジーの発達で自動化が進んでいくと予想する。毎月一定の記載があるべき場所に入力がない場合にアラートを示して記入漏れを防いだり、収支を参照したレポートを顧客ごとに必要な形で自動生成したり――という未来だ。税理士は機械が作ったレポートをもとに、問題点の報告や状況の確認をすることで、より業務を効率化できる。

 コンピュータが圧倒的に有利な側面として、記憶能力を補ってくれることにも期待したいという。人工知能を高性能なデータベースとして活用することで、単なる条文や通達の暗記に追われず、コンサルティングや経営判断の分野に集中できるのではないかと展望を語る。

 「重要なのは、人工知能をよきアシスタントにできるかどうか。機械に仕事が奪われるというよりは、まず、こうした技術をツールとしてどう使いこなしていくかで、生き残れる人とそうでない人が生まれてくると思う」

人工知能が最後までできないことは

 “アシスタント”としての人工知能が税理士としての基本的な業務を代替していく未来に、人間がすべき仕事としては何が残るのだろうか。

 杉山氏は、現状の税理士の業務を踏まえ、しばらくは機械には任せられないであろう領域として「黒か白かの2択ではなく、グレイゾーンを見極めること」「定められてないものを解釈していくこと」をあげる。

 「何かを判断するとき、『良い』『悪い』の2つの選択肢しかないのであれば、人工知能でも『良くないのであれば悪い』と判断できるかもしれないが、実際は“その間”の事象が複数存在する。例えば、海外出張のついでに休暇を取って旅行をした場合。出張費は経費で、休暇の費用は自己負担であることは当然なのですが、経費と自己負担でどのように区分するかというような判断です」

 節税対策のアドバイスなど、具体的な事象に合わせたコンサルティングの役割についても同様だ。顧客が入力した数字上から読み取り、適応できる減税措置などの“可能性”を提示するところまではできても、実際にそれが適応できるのかは、個別の事象で異なる。

 適応できないとしたら何を変えればいいのか、複数の選択の中でメリット/デメリットをてんびんにかけた上でどちらを選ぶか――目に見える数字だけでなく今足りないもの、各社の状況や目指す方向も理解した上で、最善解を検討・提案していくのが“機械ではできない”税理士の仕事だという。

 もちろんいずれは、こうした課題も人工知能研究の進展によって克服されていく可能性も十分に考えられる。「アシストツールとして活用する上で『税理士』という仕事自体の役割や立ち位置も当然変わっていくだろう」と杉山氏は考えている。

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