中古車買い取りビジネスの仕組み池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)

» 2016年03月14日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

オークション査定に特化する

 クルマ好きの人たちの中には、中古車購入時に重要なのは色や装備ではないことを知っている人もいるだろう。大事なのはもっと現実的な機械のコンディションだ。エンジンの調子やパワートレイン全体の油脂管理、シャシーのヤレ具合、変速機のヘタリ具合、各種ポンプ類の異音や漏れ、エアコンの漏れや作動も気になるところだ。高温にさらされるエンジンルームの配線やゴム製品もダメとなれば1カ所では済まない。この辺りはひと壊れで数十万円になりかねないクリティカルポイントだ。そういう問題の見分け方は、特に輸入中古車を乗り継いだ人たちにとっては何度も高い授業料を払って手に入れたノウハウでもある。

 しかしながら、日々、中古車を売買していく仕事にとっては、商品としての中古車の価値を決めるのはそこではないのである。それが上述の色や装備だ。もちろん事故歴や上で触れたノウハウ部分についても一定のチェックは行う。ただし、そもそも買い取り店は、基本的に中古車を顧客に販売するわけではない。中古車ビジネスのサプライチェーンの一角としての責任を果たすための査定であって、言葉を選ばずに言えば、売った後で起こることは本質的には人ごとなのだ。むしろ売り主にいかに高い査定を提示して喜んでもらう、いや、もっとはっきり言えば、ほかの買い取り店に勝つかの方がはるかに重要で、実感のある問題なのだ。

 しかも一般的に輸入車や、国産でもそうそう古いものはあまり扱わないので、その辺りに不具合が出るのはレアケース。現実問題としてビジネス上あまり気にする必要はない上に、「機関部分の状態が良好です」と言っても、それは価格的に反映されることはない。何故なら顧客は「壊れないのは当たり前だ」と思っているからだ。もちろんそれは間違いで、壊れないのが当たり前なら新車から値落ちする理由がない。

 つまり、顧客がグレードや色、装備こそが商品価値であると考えている以上、乱暴に言ってしまえば、オークションの相場を左右する要素のみに精通していればビジネスとしては成立するし、それ以上にチェックを行うモチベーションは店側の良心しかない。

 さて、そうやって査定したものが、どうしてディーラー下取りよりも高額になるのか、ということがビジネスのポイントになる。実は、中古車は完全に相場商品で、前述の車種、グレード、装備、色による価格差も季節や景気、燃料価格、そのほかの要因でかなりの値動きがある。新車を売るのが本筋の新車ディーラーは、とてもではないが、この日々の値動きを緻密にチェックし続けることはできない。その結果、査定精度が落ちざるを得ない。

 査定精度が落ちたとて、店は損をするわけにいかないから、安全マージンを大きめに取って査定する。ましてや限定グレードや限定色だからというレアな査定要素を子細にチェックはしていられないのだ。

 中古車買い取り専門業者にとっては、この相場こそが商いのコアになるので、日々この相場のチェックを行う。さらに、そうして高精度で査定して仕入れたクルマは値動きが起きる前にとっととオークションに流してしまうので相場変動による損も起きにくい。となれば、利幅を圧縮して買い取り価格を上げ、より多くのクルマを薄利多売でオークションに流すというスタイルになるわけだ。

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