7.5兆円を奪うのはどこか?2016年、電力自由化“春の陣”

電力自由化で東ガスが圧勝する? その理由とは電力自由化特集(3/3 ページ)

» 2016年04月06日 08時00分 公開
[寺尾淳ITmedia]
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「柏崎刈羽原発の再稼働」が勢力図を変える

 一方、東電は東ガスなどの新電力に対抗して電気料金を引き下げ、契約世帯の流出を阻みたくても、それができない事情がある。

 2015年3月期決算で東電は福島第一原発事故の補償費用として5959億円を特別損失に計上したが、国から8685億円の原子力損害賠償・廃炉等支援機構資金交付金を受けて特別利益に計上したので、補償は財務上の重圧にはならない。しかし、福島第二原発4基、柏崎刈羽原発7基の1261万KW全てが停止しているのは痛い。なぜなら、東電の切り札は発電コストが安い原子力発電であり、火力オンリーの東京ガスは手を出せないからだ。

 経済産業省の2014年の試算では、1KW当たりの発電コストはLNG火力が13.7円、石炭火力が12.3円、原子力発電が10.1円となっている。原子力は東ガスの主力電源のLNG火力に比べてコストが26.2%も安い。3月に関西電力が高浜原発の運転差し止め命令を受けて運転を停止し、料金値下げを断念したことで分かるように、原発を再稼働できないうちは、電力会社は新電力に対抗するための値下げの原資がなかなか捻出できない。東電の新料金プランが「小手先程度」のものにとどまっているのは、そのためだと言ってもいい。

 現在、稼働しているのは九州電力の川内原発の2基だけ。九電以外の電力会社は東電と事情がほぼ同じだ。関西地方で大阪ガスは2月末までに6万件の電力契約を獲得したが、値上げを繰り返した関電が値下げできないので、4月までにもっと上積みできそうだ。

 柏崎刈羽原発の再稼働はいまだメドが立たない。原発の停止は1年後の2017年4月の都市ガスの小売自由化でも、東電にとって大きなハンデになりそうだ。エネルギー自由化の2016年の電力ラウンドでは、東ガスは実力も実績もある身軽な挑戦者だが、2017年の都市ガスラウンドでの東電は、スケールは大きくても過去の出来事で傷を負った手負いの挑戦者である。東ガスに逆襲したくても、条件はイーブンではない。

photo 柏崎刈羽原子力発電所(出典:東京電力より

 もし5年前、福島第一原発が爆発事故を起こさず、いま全国で原発がフル稼働していたら、東電だけでなく電力大手10社は小売自由化が始まる4月以降も、盤石のプライスリーダーとして参入してくる新電力を軽くいなし、都市ガスの小売自由化ではガス会社の脅威となっただろう。

 もっとも、今後もし、原発が次々と再稼働してくるような事態になれば状況は一変する。東電をはじめ電力各社は低下する発電コストを武器に料金値下げを行い、顧客層の「おいしい部分」を奪い返そうと反撃に出ることができる。東ガスも他の新電力も、その時には正念場を迎える。

寺尾 淳の著者プロフィール:

経済ジャーナリスト。1959年7月1日生まれ。同志社大学法学部卒。

『週刊現代』『NEXT』『FORBES日本版』などの記者を経て、経済・経営に関する執筆活動を続けている。


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