オムロンヘルスケアが力を注ぐ「連続血圧測定」とは何か?医療は変わるか?(5/5 ページ)

» 2016年04月26日 07時45分 公開
[大河原克行ITmedia]
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連続10時間の測定が可能

 ところで、オムロンヘルスケアが開発した連続血圧測定技術とはどんなものなのか。

 同社が採用したのは、トノメトリ法と呼ばれる仕組みを使い、世界で初めて、手首に機器を付けるだけで、1拍ごとの血圧を測定できるようにしたものだ。

 トノメトリ法とは、手首の体表近くにある橈骨(とうこつ)動脈に圧力センサーを平らに押し当てて、1拍ごとの血圧を測定する血圧測定方法。これまでにもトノメトリ法を使い、連続血圧を測定することはできたが、手首でとらえた1拍ごとの血圧値と、上腕で測った血圧値を照らし合わせる必要があり、大型の機器を使った複雑な測定となっていた。さらに別の方法では、指などに圧力をかけるため、連続して測定すると被験者の指がしびれていまい、30分程度しか測定できないという課題があった。

 オムロンヘルスケアでは、オムロンのコアコンピタンスである半導体、MEMS(微細加工技術)、集積回路といったセンシング技術と、長年培ってきた血圧測定ノウハウを結集。1列あたり10ミリメートルの幅に46個の素子を並べ、それを2列で構成した独自の圧力センサーをオムロンと共同開発した。

 また、センサーが正しく血管を圧迫しているかを検知し、自動的にセンサーの角度を調整する機構を構築。これにより、手首に取り付ける機器のみで、1拍ごとの血圧を連続して測ることが可能になったという。

 オムロンヘルスケア 技術革新担当・田中孝英執行役員常務は、「血圧を正確に測るためには、圧力センサーを橈骨動脈に平らに当てる必要がある。しかし、手首の構造には個人差があること、橈骨動脈の近くにある橈骨や腱が邪魔をするため、橈骨動脈に平らに圧力をかけることが困難だった。そこで、センサーを2列に配列し、それぞれのセンサーから得た圧力情報を基に血管の位置を確認。その人に合った最適なセンサーの角度を自動的に調整できるようにした。これは当社にしかない技術」と胸を張る。現在、二次電池を使い、連続10時間の測定を可能にしているという。

 この技術を活用した研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の未来医療事業プロジェクトで自治医科大学、九州大学との共同研究として採用された。

 イベントゼロの実現に向けては、これから何十年もの取り組みが必要になるだろう。だが、大義を持ったオムロンヘルスケアの新たな挑戦は、医療を大きく変えることになるのは間違いなさそうだ。

著者プロフィール

大河原克行(おおかわら かつゆき)

1965年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、25年以上にわたり、IT産業、電機業界を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。現在、ビジネス誌、Web媒体などで活躍。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、AVWatch、クラウドWatch、家電Watch(以上、インプレス)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp(KADOKAWA)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで連載記事を執筆。夕刊フジでは「まだまだスゴい家電の世界」、中日新聞では「デジモノがたり」を連載中。著書に、「松下からパナソニックへ 世界で戦うブランド戦略」(KADOKAWA)、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「図解 ビッグデータ早わかり」(KADOKAWA)などがある。近著は、「究め極めた『省・小・精』が未来を拓く――技術で驚きと感動をつくるエプソンブランド40年のあゆみ」(ダイヤモンド社)。

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