新型パッソ/ブーンで見えたダイハツの実力池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)

» 2016年05月02日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 エンジンとトランスミッションも進化していた。3気筒1リットルのエンジンがパワフルなわけはないが、実用上十分で、しつけが行き届いている。そもそもクルマのパワートレインにとって、踏むとドーンと加速する性能は重要度から言えば二の次で、思ったときに速度が微細に調整できることの方がずっと重要だ。ダイナミックレンジより解像度が大事なのだ。

 車速の微増を求めてアクセルを踏み足す操作に応じて、このパワートレインはギヤ比を保ったまま、トルクを増やして少しだけ加速することがちゃんとできている。ダメなパワートレインだと、アクセルを踏んだ途端、ギヤ比をするすると下げ、エンジンがブオーンと唸り出す。それは加速感の演出に過ぎない。

 3気筒は振動面で不利なはずのレイアウトだが、そこもうまく抑えている。技術的には12.5:1という驚くべき高圧縮比を実現している。吸気ポートを吸気弁ごとに独立させた上で、両ポートに独立したインジェクターを採用し、設置位置を燃焼室の近くに寄せた。これは燃料の霧化を高めて濃度の管理能力を高めると同時に、燃焼室内の渦を強め無駄な燃料を減らす技術だ。

 もちろん直噴方式にはおよばないが、コストはこちらの方が有利である。低価格で低燃費という主題に沿った技術的アプローチと言えるだろう。これにEGR量の増加とアイドリングストップを加えて、リッターあたり28.0キロの燃費を達成している。

 ハンドリングは安心で安全だ。上述の通り運転が得意でない人は、知らずに怖いことをするときがある。例えば、雨の下り坂で、ブレーキを踏みながらハンドルを切るという操作は、運転のうまい人は既に状況自体にひやりとしつつ、スピンを予知して操作を始めるのだが、そんなことは期待できない。だからそこをカバーしてやらなくてはならない。スポーツカー的な俊敏な身のこなしは不要でも、リスキーな場面での運動能力は必要だ。そのあたりのまとめかた、前後のバランス、あるいはリヤタイヤからの「限界を知らせる」インフォメーションの出し方もきちんとしていた。

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