新車が売れない時代に出口はあるか?池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)

» 2016年05月09日 08時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 新車が売れていない。日本自動車販売協会連合会(自販連)の調査によれば、軽自動車と登録車(軽以外の乗用車)を合わせた2015年通年の新車販売は対前年比で90.7%。2016年は1月〜3月の累計で対前年比93.2%。2015年はかろうじて500万台超えはしているが、2016年の推移を見ると間違いなく500万台を割るだろう。その上、2017年4月に政府が消費税率の引き上げを強行すれば、自動車業界はちょっとしたパニックに陥る可能性がある。

 さらに追い打ちをかけるように、「エコカー減税」の期限がやってくる。こうした時限減税は麻薬のようなもので、制度が終わるときに禁断症状に苦しむことになるのは最初から分かっていることだ。その痛みを恐れて、これまでも繰り返し期間の延長が行われてきた。

 現在のところ2017年3月末(重量税は4月末)までということになっているが、そこはまさに消費税引き上げと見事な相乗効果を発揮するタイミングだ。消費税率アップと引き替えに取得税が廃止になるものの、市場のショックを考えるととても楽観的にはなれない。本当に税率改定のプログラムをすべて予定通りに行ったら、国内新車販売は今以上の急減速に見舞われるだろう。政府には日本経済をつぶしたい意図はないだろうから、エコカー減税はまたもや期限の延長をするしかない。どうにも泥縄だ。

トヨタが2016年3月のジュネーブ・モーターショーで発表したC-HR トヨタが2016年3月のジュネーブ・モーターショーで発表したC-HR

日本の基幹産業のゆくえ

 国を挙げて憂慮するのは、自動車産業は日本の基幹産業であり、不振ともなれば日本経済を直撃する可能性が高いからだ。つまり経済的打撃が全国民に広がり、国力にも影響を与える可能性がある。それは非常に憂慮すべき問題である。

 しかし、政府が自動車メーカーだけに特別振興策を設けて優遇する制度は自由な競争を阻害するという意味で望ましくない。日本にとって大事な産業であればこそ、ぬるま湯に浸らせるのはマズいのだ。実際燃費の改ざん問題もこのエコカー減税制度と密接に結び付いている。正しい競争と研鑽の中で発展させないと、産業としてダメになってしまう。できるなら、自動車メーカーは正攻法の自助努力によって、安定的にヒットモデルを生み出し、この苦境を乗り越えてほしいと思う。

 もちろん、どのメーカーもヒットモデルは喉から手が出るほどほしい。今後のグローバルマーケットを担うのはベーシックなBセグメントなのは明白だ。しかし一方で、日本のマーケットで何をヒットモデルに育て得るのだろうか。

 ここ数年の推移を見ると、直近までエースの座を担ってきたのは軽自動車だった。衝突安全基準の改定によってサイズが大型化し、機能がどんどん充実した結果、販売価格も上がり、利幅もそこそこ取れるようになった。ところが、この稼ぎ頭が昨年4月の軽自動車税の引き上げで勢いを失った。登録車(軽自動車以外のクルマ)から見れば「軽自動車は優遇されすぎだ」という話になるが、本来的には登録車の税が高すぎるのだ。一方で産業保護のためと言ってエコカー減税を行いながら、軽自動車が売れ始めると増税で勢いを削ぐ。このあたりは政府のやりたいことがまったく分からない。翻弄(ほんろう)されるメーカーが気の毒になる。

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