「札幌駅に北海道新幹線のホームを作れない」は本当か?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/6 ページ)

» 2016年05月27日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


北海道新幹線・札幌駅予定地が消えた

 新幹線の駅は在来線の駅に隣接して作られる。これは大原則だ。そもそも東海道新幹線は「東海道本線の特急用複線追加」という概念であったから、新幹線の東京駅は在来線と並んで当然だ。小田原、熱海、静岡、名古屋もそうだ。

 ただし例外はある。新横浜、岐阜羽島、新大阪だ。新大阪駅は山陽新幹線方面の延伸を考慮したためで、新横浜駅と岐阜羽島駅は、東京〜大阪間を直線的なルートにしたかったからだ。もちろん横浜駅付近は用地買収が困難であっただろう。岐阜羽島駅は政治家が誘致した説もあるけれど、現在は「関ヶ原の降雪に対応する待機駅が必要だった。しかし、岐阜駅接着は迂回ルートになるから現在の位置に」という説が有力だ。

 その後も既存の主要駅にはこだわらない駅が増えている。ただし原則は変わらず主要駅に隣接し「例外として直線ルートを優先」である。北海道新幹線の新函館北斗駅もそうだ。北海道新幹線は札幌駅を目指していたから、現在の函館駅に隣接すると、迂回またはスイッチバックになってしまう。「函館市には空港があるから北斗市に」という説もあるようだけど、そうした地域エゴで新幹線ルートは決まらない……と信じたい。

北海道新幹線のルート(出典:鉄道建設・運輸施設整備支援機構Webサイト) 北海道新幹線のルート(出典:鉄道建設・運輸施設整備支援機構Webサイト

 北海道新幹線の札幌駅は現在の札幌駅に隣接する。これが規定事項であった。1973年の整備計画では「青森市〜札幌市」であった。青森駅は行き止まり構造のため、新青森駅になって開業した。これはご存じの通りである。札幌駅については1998年2月に駅とルートが公表され、環境影響評価図面が作成された。札幌駅はその10年前、1988年に高架化され、南側に空地ができた。そこを新幹線ホームにすると誰もが思っていた。

政府与党は「地下案」、JR北海道は「1・2番ホーム転用案」

 環境影響評価が終わった2000年に工事実施計画の認可申請を行った。ところが、ここから新幹線札幌駅計画は揺らぎ始める。札幌駅の高架化完成を待たずに始まった再開発計画によって、新幹線駅予定他の両隣にJRタワー、大丸札幌店などの大型ビルが建てられた。これでは新幹線ホーム予定地に新幹線の線路が届かない。新幹線予定地と明言しなかったJR北海道が悪いのか、札幌市の再開発計画の見通しが悪いのか。責任の所在は曖昧(あいまい)で、新幹線ホーム予定地が消えるという現実が残った。

 そこで、新幹線は函館本線の線路に沿って高架を建設し、現在の在来線1番・2番ホームを新幹線に転用するという計画がまとめられた。2012年に工事実施計画が認可され、着工した。1番・2番ホーム転用はもともとJR北海道が示した代案だと報じられていた。

 一方、2014年10月に政府・与党整備新幹線検討委員会は、札幌市街地の線路は地下、札幌駅ホームも地下とする案を検討した。札幌周辺の用地買収が難航すると予想されたためだ。ただしこれは検討のみで終わったようだ。

北海道新幹線札幌駅までの認可ルート(出典:北海道公式サイト) 北海道新幹線札幌駅までの認可ルート(出典:北海道公式サイト

 2015年1月、政府・与党整備新幹線検討委員会は、当初の開業予定だった2035年度(2036年春)より5年早く、2031年春の前倒しで合意する。地下トンネルでは工期を短縮できない。あるいは、京急電鉄の高架化や上野東京ラインの建設のような「既存の線路の直上に高架線路を建設する技術」も含んでのことだろう。こうして、札幌駅は「現在の在来線1番・2番ホームを新幹線に転用する」で決まったはずだった。

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