組織は3階層、定期ローテーション人事もない 銀行の“真逆”で伸びる新生プリンシパルインベストメンツポーター賞企業に学ぶ、ライバルに差をつける競争戦略(1/4 ページ)

» 2016年06月07日 08時00分 公開
[伏見学ITmedia]

 首都圏の中堅・中小企業に特化して投資銀行サービスを提供する新生プリンシパルインベストメンツ。そのサービス内容は、企業のライフサイクルに応じ、創業後の成長期にある企業を支えるベンチャー投資、上場前の資金提供、困難な時期にある企業の債権投融資によるバランスシート改善、事業継承を円滑化するバイアウト投資など幅広い。

 投資銀行サービスを持つプレイヤーは少なくないが、同社は投下資本利益率(ROIC)、営業利益率(ROS)ともに業界水準を大幅に上回っている。2010年から5年間の平均を見ると、ROICが4.3ポイント、ROSが54.6ポイント上回っているのだ。その勝因は、同業他社である外資系投資銀行やメガバンクが手を出したくない仕事をやっていることに尽きる。

同業他社と比較した新生プリンシパルインベストメンツの投下資本利益率および営業利益率 同業他社と比較した新生プリンシパルインベストメンツの投下資本利益率および営業利益率

 こうした差別化戦略が評価され、同社は一橋大学大学院 国際企業戦略研究科(一橋ICS)が主催する2015年度「ポーター賞」を受賞した。その事業の取り組みについて一橋ICSの大薗恵美教授が、新生PIグループ代表 兼 新生銀行 常務執行役員を務める小座野喜景氏に聞いた(以下、敬称略)。

最初は賞味期限2年ほどのビジネスだった

大薗: 新生プリンシパルインベストメンツは好業績が続いていますが、もともとは新生銀行の一部門としてスタートしています。どういう狙いで生まれた事業だったのでしょうか?

小座野: 1998年に日本長期信用銀行(長銀)が経営破たんし、公的資金を入れていただき2000年に新生銀行が誕生しました。当時、新生銀行を含め、多くの銀行が不良債権処理を行っていたわけですが、その中で他行が手放した破たん先や実質破たん先企業への債権を買い取り、経営改善することで返済を得る事業として2001年に立ち上げました。

新生PIグループ代表 兼 新生銀行 常務執行役員の小座野喜景氏 新生PIグループ代表 兼 新生銀行 常務執行役員の小座野喜景氏

 当時の新生銀行には収益の柱がなかったため、何とかすぐに収益を上げられるビジネスはないかということで、この事業に白羽の矢が立ったわけです。賞味期限が2年ほどのビジネスでしたし、マーケットに参入したのも最後でした。

 その後、破たん債権に加え、再建可能な企業の債権を買い取り、コンサルティングサービスを提供することでキャッシュフローを改善する再生型支援を加えました。この取り組みによって、現在のビジネスの核となっている中堅・中小企業へのコンサルティングサービスの礎を築きました。

 破たんせずに生きているけれども健全になるかどうかは分からない企業を支援するのは時間もかかるため、誰もやりたがらなかった。そこにビジネスチャンスを見出したのです。

大薗: 2013年にはこの事業を法人化しました。なぜそれが必要だったのでしょうか?

小座野: 一言でいうと、一般的な銀行の真逆を行きたかったのです。“アンチテーゼ”みたいなものです。例えば、当社には定期的なローテーション人事がありませんが、銀行は3〜5年ごとに人事ローテーションがあります。その目的は不正防止などさまざまですが、サービスの質を保ちながら自由に人の異動ができるためには、人材の均質化が必要になり、結果として“金太郎飴”のように同じスキルやバックグラウンドなどを持った人材を採用・育成しています。

 また、銀行はユニバーサルなモデルを提供しようとするので、東京本店でも、札幌支店でも、福岡支店でも同じサービスを提供しなければなりません。対象も個人から大企業まで幅広い。それに対して、当社の顧客は首都圏にある年商10億〜50億円の中堅・中小企業に絞っていて、カスタムメイドでサービスを提供しています。つまり、銀行の提供する標準化したサービスとは相いれないわけです。

 私たちの部署には実は2004年くらいからそうした風土はあったのですが、法人化まで10年ほどかかったのは、時間をかけて新生銀行の経営トップと信頼関係を構築してきたからです。我々は事業立ち上げ時から4人の社長に仕えてきましたが、どの社長の下でもコンスタントに収益を上げ、合意した戦略を実現してきました。約10年かけて「こいつらなら大丈夫だろう」という信頼を得たということです。

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