1934年1月、YKKの創業者である吉田忠雄氏が東京・日本橋でファスナーの加工・販売をスタートした。それから約80年。同社は今やファスナー商品において世界的なリーダーの地位に上り詰めた。
2015年3月期の決算において、同社のファスニング事業はスポーツアパレルやアウトドア関連の顧客への販売好調などの要因により、売上高は前年同期比8.5%増の3132億6400万円、営業利益は同15.2%増の574億4800万円と増収増益となった。
そうした中で同社は2014年度、ユニークな競争戦略によって高い収益性を達成・維持している企業を表彰する「ポーター賞」(一橋大学大学院 国際企業戦略研究科:一橋ICS主催)を受賞した。そこで今回、YKKのビジネス成長戦略や今後の経営課題などについて、一橋ICSの大薗恵美教授が、同社の猿丸雅之社長にインタビューした(以下、敬称略)。
大薗: ポーター競争戦略論の核となるのは、独自性のある戦略です。猿丸社長は、YKKのファスニング事業のユニークさはどこにあるとお考えでしょうか。
猿丸: まず会社全体としては、非上場企業というユニークさはあります。一般的に言われるように、比較的資本市場のステークホルダーにとらわれず、自由なことができるという利点はありますが、もちろん好き勝手なことをしているわけではなく、透明性を保った経営をしています。非上場企業として約80年間、創業者が唱えた精神、理念、考え方を守りながら、メーカーに徹しているという点はユニークだと思います。
加えて、ファスニング事業においては、材料から製造設備、製品までの一貫生産を行っていることや、積極的に海外に出て理念経営をベースに事業展開していることも特徴的と言えるでしょう。また、それが競争力になっていると考えています。
大薗: 材料からの一貫生産も競争力になり得るのでしょうか。
猿丸: 何を持って競争力なのかということですが、昨今だと原価抑制などコスト面に目がいきがちです。しかし、競争力とはそれだけではないのです。YKKが部材の材料にまでさかのぼって作っているのは、材料部門における要素技術が蓄積され、社外に依頼するよりもはるかに幅広い研究開発ができるからです。
単によそから買ってきたものを加工するだけではない、そうしたことが最終的に競争力に結び付くのです。決して他社から購入するとマージンが高くなるからという考え方で一貫生産を行っているわけではありません。
例えば、繊維材料に関して、現在は6割以上を社外から調達していますが、並行してインドネシアの拠点でも生産工程を持っています。コストだけを考えればすべて社外から調達したほうが安いでしょうが、そうすると社内の繊維に関する技術が完全になくなってしまいます。こうした社内の技術力は最終的な商品の品質に反映されます。競争力とは単にコストだけの話ではないのです。
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