悲願を達成したものの、社内では懸念する声も上がっていた。「消費者に0.02と0.01の違いが分かるのだろうか」。需要が読み切れなかったこともあり、試験的に東京都と一部Webサイトで限定発売した。そこでの売れ行きを見ながら全国展開をしていく予定だったが……ここで1つ大きな誤算があった。想定していた以上の需要があり、生産が追い付かない状態になってしまったのだ。
本格的に生産をするべく、14年5月に一時販売終了。国内の需要を読み、万全に準備できる増産体制を整えて、同年9月に全国で発売した。
国内におけるコンドーム消費者多くは20代から30代。1998年の発売当初コンドームの中では定価1000円(6個入り)と高額なため、「もっと上の世代が買うのではないか」と考えていたが、若い層に支持され、またリピート率も高かった。
「パッケージが“いかにもコンドーム”ではなかったので、清潔感があって手に取りやすかったのではないか。また、ゴムの匂いが苦手な女性からも好評をもらい、『パートナーのためにサガミオリジナルを』と購入してくれた方も多い」
クラブイベントやコラボなども行い、「サガミオリジナル」ブランドの構築に成功し始めた相模ゴム工業。……しかしこの「001」にはもう1つの誤算がやってくる。国内需要はしっかり読んでいたものの、国外からの需要が爆発的に伸びてしまったのだ。
15年の流行語にもなった“爆買い”。外国人訪日客、とりわけ中国人訪日客が、ドラッグストアや家電量販店、百貨店で大量に買い物を始めたのだ。サガミオリジナルのとりわけ「001」は、口コミで「オススメだ」と広がっていた。
中国人訪日客は「001」のどこに魅力を感じていたのだろうか。その理由について山下さんは「日本製の安心感は大きい。そして中国ではまだ0.01ミリメートルのコンドームを作る技術力がなかったので、心を引かれたのでは」と推測する。
ちなみに値段は日本では定価1200円。現在「001」の海外展開はしていないという。「002」はスタンダード3個入り52元(約800円)、Lサイズ4個入りが68元(約1040円)だが、「中国でも数が足りていない割高な002より、日本で買う001のほうがいい」と考えもあったのだろう。
もともと空港に置かれていたりと“おみやげ需要”は存在していた日本製コンドーム。しかし、大阪のマツモトキヨシで月に1000箱売れるような今までにない購買力を秘めていたとは、さすがに予想ができていなかった。
コンドームは1つの店で月に5箱以上売れればヒット商品といわれる。それが200倍売れるとなれば、売り切れ店舗は続出する。品薄状態が続き、作っても作っても追いつかない。
「『002』と『001』は同じ製造ラインで作っている。このままでは、『002』の製造にも大きな影響が及んでしまう。『001』の製造工程を見直しながら、『002』を生産し続けることは難しかった」
苦渋の決断を迫られた結果、「001」の2度目の販売休止に踏み切ったのだった。
それから1年。その1年の間に、コンドームを巡る“戦場”の状況は変化していた。販売休止のタイミングは、ライバル企業であるオカモトも薄物コンドームを売り始めた2カ月後。相模ゴム工業が生産体制を整えている間に、オカモトが“0.01ミリの首位”に立っていた。
販売再開にはもちろん、「これ以上独占状態にしておくわけにはいかない」という経営判断もあっただろう。しかしそれとは別に、「コンドーム会社として、『性病予防』『避妊』を必要としている層に行き届かせるという社会的責任がある」という思いが強かったのだと山下さんは語る。
「社会的責任ってどういうこと?」と思う人もいるかもしれないので、もう少し詳しくご説明しよう。
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