「キンドル読み放題」は書店を街から消すのか加谷珪一の“いま”が分かるビジネス塾(1/4 ページ)

» 2016年08月31日 06時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]

 このところ出版業界に大きな動きが相次いでいる。アマゾンジャパン(以下、アマゾン)が電子書籍の読み放題サービス「Kindle Unlimited」(キンドル アンリミテッド)をいよいよ日本でもスタートさせたが、一方でリアルの書店には再編の波が押し寄せている。

 日本最大の書店として開業し、書店大型化の先駆けとなった八重洲ブックセンターが出版取次大手トーハンの傘下に入った。また新宿南口の大型書店であった紀伊国屋書店新宿南店もフロアの大幅な縮小に追い込まれた。書籍の市場は手にとって1冊ずつ購入するという形から、電子書籍の定額読み放題に一気に流れてしまうのだろうか。

photo 「Kindle Unlimited」(キンドル アンリミテッド)

キンドル読み放題はまずまずの滑り出し?

 アマゾンは8月3日、電子書籍の定額読み放題サービス「Kindle Unlimited」を開始した。米国などでは既に同様のサービスがスタートしており、日本は12カ国目となる。

 Kindle Unlimitedは、月額980円で12万冊以上の書籍やコミック、240誌以上の雑誌、120万冊以上の洋書が読み放題になる。キンドルでは46万冊の和書が販売されているので、全体の約4分の1が読み放題になる計算だ。対象となる書籍にはベストセラーの作品も含まれており、数多くの本を読む人にとっては相当な割安感がある。

 ただ、発売から半年以内の作品がほとんどなく、新刊書をたくさん読みたい人には十分なサービスとはいえない。コミックについては人気作品の一部だけに限定して読み放題とし、続きの購入を促す形となっている。

 アマゾンは以前から日本でも読み放題のサービスを提供することを計画していたものの、出版社との交渉がまとまらず、なかなか開始にこぎ着けられなかったといわれる。こうした読み放題のサービスは、有力なコンテンツ事業者が参加しない状況ではうまくいかない可能性が高く、アマゾンは慎重にならざるを得なかったようだ。

 日本の出版業界は、講談社系列(音羽グループ)と小学館系列(一ツ橋グループ)が極めて大きな影響力を持っている。このほか文芸系の老舗である文藝春秋や新潮社、最近参入した幻冬舎、ビジネス書ではダイヤモンド社や東洋経済新報社などが大きなシェアを占める。

 今回、アマゾンは講談社と小学館という出版業界で最も影響力のある2社を引き入れることに成功した。ただ、有力出版社の中でも、一ツ橋グループの1社である集英社や独立系のKADOKAWAなどのように読み放題に参加しなかったところもある。集英社は有力な雑誌とコミックを抱えており、一方のKADOKAWAは相次ぐM&Aによって、文芸書からビジネス書まで幅広くそろえる総合出版社となっている。この2社の参加がないのは少々痛いが、大手のほとんどが参加を決めたという点を考えると、まずまずの滑り出しといってよいだろう。

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