ローカル線足切り指標の「輸送密度」とは何か?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)

» 2016年09月02日 06時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]

足切りとなる輸送密度は4000人/日だった

 鉄道路線において輸送密度という考え方が一般に広まった時期は、国鉄時代の赤字ローカル線廃止論議からだ。

 1968年に国鉄諮問委員会が赤字線廃止を提案した。このときの基準は輸送密度ではなかった。「営業キロが100キロメートル以下。沿線人口が少なく(乗降需要がなく)、鉄道網に寄与しない(通過客も少ない)。定期客が3000人以内、JR貨物の1日発着扱いが600トン以内。競合する輸送機関より利用が少ない」という基準で、当時83路線が廃止対象となった。営業密度は関係なく、主観的な要素も混じった。

 次の段階の赤字ローカル線廃止は、1980年に制定された日本国有鉄道経営再建促進特別措置法(国鉄再建法)であった。ここで国鉄の路線は幹線と地方交通線に分類され、地方交通線については割増運賃を認めた。このとき、幹線の条件として「単独で旅客輸送密度8,000人/日以上」「2つの主要都市(10万人以上)に接続し、30キロメートル以上で、旅客輸送密度4000人/日以上」などがあった。これ以外の路線は地方交通線であり、さらに「輸送密度4000人/日未満」の路線は「特定地方交通線」としてバス転換が適当と判断された。

 つまり、国鉄が公共事業として鉄道を維持する基準は「輸送密度4000人/日」であり、この数字に満たなければ国家事業として公共的な鉄道とは言えない。限られた利用者のための路線と判断された。ただし、この条件に該当しても、道路事情が悪くバス転換できない路線は特例として対象から外されている。

 その結果、国鉄から「輸送密度4000人/日」で足切りされた路線については、バスに転換するか、自治体が出資して第三セクター鉄道に転換された。現在、新幹線の並行在来線以外の第三セクターについて、ほとんどがこの判断で第三セクターとなった。

 地方の過疎化が進み、このときの基準をもう一度適用すると、JRグループでは存続できない路線が多い。JR北海道で存続できる路線は、函館〜東室蘭〜札幌、小樽〜札幌〜旭川、(札幌〜)南千歳〜帯広、(札幌〜)桑園〜北海道医療大学、これだけだ。JR北海道ではなく、JR札幌と改名したくなる。

JR北海道の発足当時、黒い実線はすべて輸送密度4000人/日以上だった(出典:JR北海道) JR北海道の発足当時、黒い実線はすべて輸送密度4000人/日以上だった(出典:JR北海道

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