豊洲新市場の土壌汚染はどのくらい深刻なの?加谷珪一の“いま”が分かるビジネス塾(1/4 ページ)

» 2016年09月08日 06時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]

汚染の原因は以前、操業していたガス工場

 東京都の小池百合子知事が、築地市場の豊洲への移転延期を正式に表明した。延期の理由は、安全性が確認されていないこと、費用の検証が不十分なこと、情報公開が不十分であることの3つである。特に問題となっているのは、環境問題なのだが、実際のところどのくらい深刻なのだろうか。

 豊洲新市場の予定地はもともと東京ガスのガス製造工場があった場所である。1954年から埋め立てがスタートし、1956〜1988年まで都市ガスの製造が行われていた。現在の都市ガスはLNG(液化天然ガス)を使用しているので、製造過程において汚染物質が出ることはない。しかし、当時の都市ガスは石炭から製造しており、その製造過程では多くの汚染物質が関係してくる。

 石炭からガスを取り出すには、まず原料となる石炭を蒸し焼きにして(乾留)、ガス成分を揮発化させる必要がある。この段階でタールが副産物として出てくるが、ここにはベンゼンやシアン化合物が含まれており、処理や取り扱いの方法によっては土壌汚染の原因となる。

photo 豊洲新市場

 その後、ガスに含まれる硫黄分を除去するために脱硫という処置が行われるが、触媒としてヒ素化合物が使用されていた。実際、土壌の汚染調査では、ベンゼン、シアン化合物、ヒ素、鉛、水銀、六価クロム、カドミウムなどが検出されている。

 もっともガス工場でこうした汚染物質が使われたからといって、むやみに土壌が汚染されるわけではない。ガスの生成施設は基本的に外部とは隔絶された形で管理されており、これらの汚染物質が直接外部に放出されるわけではないからだ。

 可能性が高いのは、工場で事故などのトラブルが発生したケースだが、東京ガスの施設では大きな事故は起こっておらず、事故が由来で汚染物質が漏えいした可能性は低い。

 ただ、こうした工場の施設は、問題なく操業できていても、定期的にメンテナンスをする必要があり、装置の交換などが行われる。そうなると装置の汚染された部分が外部と接触し、一部が土壌に染みこむ可能性がある。また大雨や台風などで建物がぬれてしまったケースでも、躯体に不着した汚染物質が溶け出すこともあるだろう。

 もう一つ考えられるのは、発生した副産物や廃棄物の処理である。基本的には適切な処置が行われているはずだが、副産物を仮置きしたり、副産物の移動などに使用した機材を修理したり洗浄するといった過程で、一部の汚染物質が土壌に入り込むことも考えられる。

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