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ふるさと納税、新しい“2つのトレンド”「肉と魚」だけじゃない(1/2 ページ)

» 2016年12月28日 07時00分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

 2015年4月の税制改正で手軽になり、返礼品の“お得感”が話題になったのもあって一大ブームとなったふるさと納税。11月には「16年度のふるさと納税による地方自治体への寄付額は、昨年度から1.6倍の2600億円程度になる見通し」と菅義偉官房長官が公表し、件数・金額ともに好調だ。

 一時は返礼品競争が過熱し、「地域間での税収の格差を正して地方を活性化するという本来の趣旨が見えなくなっている」と批判も受けたふるさと納税。4月に総務省から「換金性の高いものは控えるように」という通達が出て以降は、健全化してきている。現在安定して人気があるのは、やはり“王道”の肉や魚介類だ。

 しかし16年は、15年とは違う“2つのトレンド”も生まれている。そのトレンドはなんなのか、そして17年はどうなっていくのか? 民間ふるさと納税サイト「さとふる」を運営するさとふる社事業企画部の道岡志保さんと谷口明香さんに聞いた。

さとふるの道岡志保さん(左)と谷口明香さん(右)に、2016年のトレンドと来年の予想を聞いた

トレンド1:被災地支援

 「16年は、4月の熊本地震、8月の岩手県宮古市の台風被害、10月の鳥取県中部地震と、大きな災害がありました。ふるさと納税を利用した被災地支援に注目が集まっています。熊本地震発生直後から特設サイトを作ったところ、半年で2億円の寄付が集まりました」(道岡さん)

2億円の寄付が集まった被災地支援の特設サイト

 ふるさと納税を利用した被災地支援には2パターンある。1つ目が返礼品をもらわない全額寄付。2つ目が、流通や生産の体制が整ってからの返礼品を希望するものだ。利用者にとっては「支援した全額が被災地に届く」「控除が簡単に受けられる」などのメリットがあり、自治体にとっては「一番支援を必要としている発生直後に多くの支援を得られる」「震災後に停滞しがちな地域経済の活性化になる」「持続的な支援につながる可能性がある」と好評だ。

 こうしたふるさと納税の使い方は、東日本大震災の被災地でも見られたが、15年のブームを経て、今年再度注目されるようになった。SNSでのシェアも広まりに影響を与えている。さとふるは浅草の商業施設「まるごとにっぽん」にふるさと納税カウンターを設けているが、「被災地に寄付をしたい」と言って訪れてくる人が増えてきているという。こうした動きを見た自治体からも「熊本地震のように、被災地支援の特設サイトを作ってくれないか」と相談を受けるようにもなっている。

 「支援に対する報告が多いことも、利用者の安心感につながっているようです。さとふるでは特設サイトを立ち上げることで、被災の風化を防ぐお手伝いができていると感じています」(谷口さん)

トレンド2:“体験型”の返礼品

 ふるさと納税のネックになるのは確定申告の面倒さ。それを解消するべく15年に5団体まで確定申告いらずで適用を受けられる「ワンストップ特例制度」が生まれたため、同じ自治体に控除上限額まで複数回寄付をした方が楽でお得になった。何度も返礼品を受け取るうちに、地域に対する興味が高まり、「現地に行ってみたい」というニーズが生まれている。その結果、現地に訪れる“体験型”の返礼品が増加傾向にある。さとふるのサイト内では、15年と比べて2倍以上になっているという。

 例えば、北海道江差町の「日本一若い町長のおもてなし江差ツアー」。1984年生まれの照井町長とともに江差町の観光スポットや地元のレストランを巡り、最後は高級旅館に宿泊する。自治体が発案したプランで、10万円以上と比較的高額な寄付金額でありながら、申し込みは少なくない。

町長が案内してくれるツアーが人気

 また、宮崎県宮崎市の「ペア往復航空券+宮崎観光ホテル宿泊券とレンタカープラン」や山梨県富士吉田市の「富士吉田市名物ツアー」など、飛行機や新幹線のチケットが付いた“足付き”プランも増えている。

 ふるさと納税に参加している自治体の中には、大都市からのアクセスが悪い地域もある。その場合、「地域には興味があるが、どう行っていいのか分からない」となってしまいがちだ。旅券や宿泊券を付け、その問題をフォローするパッケージ化をすることで、来てもらいやすくなる効果が生まれているという。

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