もちろん、エリート集団である経産省もそれはよく分かっている。ならば、なぜ分かっているのにもかかわらず、生き馬の目を抜く半導体業界で通用しない「日の丸連合」などという悪手をふれまわるのか。
ひとつには、サムスンやインテルが行なってきた十数年前から、経産省は乱立する日本の半導体メーカーが共同で半導体受託会社を設立する「日の丸半導体連合」構想を進めようとしていたことがある。役所というのは「夢よもう一度」ではないが、前任者の政策に固執する傾向があるからだ。ただ、今回の東芝の場合に限って言えば、「オトナの事情」によるところが大きいと思っている。
経産省や政府筋がネタ元になっているであろう報道を見ると、必ずといっていいほど以下のような説明がある。
『東芝が売却する半導体メモリー事業は世界的にも屈指の高い技術力で、軍事転用もできることから、買収先によっては安全保障上の問題につながるとの懸念があがっている』(日テレニュース24 3月24日)
『政府は、東芝の記憶用半導体、フラッシュメモリーの技術は、機密情報を管理するデータセンターなどにも使われるため、その技術が外国に流出することは、日本の機密保持や安全保障の観点から問題があると見ています』(NHKニュース 4月14日)
行間から「中国に技術が渡らないように……」ということを述べたいのは明らかだが、実はこんな「危機」を煽(あお)り出したのは最近のことだ。2014年、東芝と提携しているサンディスクの日本人技術者が、今回の入札にも名乗りをあげている韓国のSKハイニックスに、NAND型フラッシュメモリの研究データを持ち出したことがあるが、その際にはこんな天下国家の話題は出ていない。
なぜわずか3年でフラッシュメモリーは日本の安全保障を揺るがす大問題になったのかというと、かの国の安全保障にかかわってきたからだ。
もうお分かりだろう、米国だ。
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