東芝問題で「日の丸レスキュー」構想が出てきたワケスピン経済の歩き方(5/5 ページ)

» 2017年04月18日 08時15分 公開
[窪田順生ITmedia]
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米国様が騒ぎ始めて「日の丸」を掲げる

 東芝の技術は世界のパワーバランスも大きく変えるかもしれないのに、当の東芝自体は正直なところその価値をよく分かっていなかった。原発事業には湯水のごとく金を注ぎ込んでいたが、メモリ事業はライバルであるサムスンなどに負けないほどの投資を行なってこなかった。むしろ、市場拡大のためにその技術をサムスンに提供するなどかなり軽く見ていた。

 事実、フラッシュメモリを1987年に開発した舛岡富士雄さん(現・東北大名誉教授)も「部下も予算も付かない閑職」に飛ばされ、舛岡さんをはじめ関係各所に関わった技術者の半数は辞めたとおっしゃっている。

 「半導体技術をきちんと評価してこなかったのに、いまさら技術流出を言うのは遅い」(東京新聞 4月6日)

 この舛岡さんの言葉は、そのまま日本政府にもあてはまる。半導体技術をしっかりと評価をしてきていれば、「日の丸半導体」なんて時代遅れの発想が出るわけがない。米国様が騒ぎ始めたといってとってつけたように「危機」を煽るのも虫が良すぎる。

 かといって、このまま東芝メモリを手放すのは忍びない。技術流出云々もあるが、半導体が米中関係にこれだけ大きな影響を与えていることを考えれば、日米関係の「カード」にもなり得るからだ。

 そもそも、東芝メモリはルネサスやエルピーダとは事情が異なる超優良事業で、日本発のIoTサービスを構築するうえで必要不可欠な存在だ。これが海外勢に渡るのはある意味で、東芝という上場企業が日本からなくなるよりも大きな痛手ではないか。

 日本政府は「日の丸レスキュー」なんて負け戦を仕掛けるのではなく、東芝メモリを救う道を本気で考えていただきたい。

窪田順生氏のプロフィール:

 テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで100件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。

 著書は日本の政治や企業の広報戦略をテーマにした『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。


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