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» 2017年04月21日 07時00分 UPDATE

杉山淳一の「週刊鉄道経済」:鉄道路線廃止問題、前向きなバス選択もアリ (1/5)

赤字ローカル線の廃止論議で聞く言葉に「バスでは地域が衰退する」「バスは不便」「鉄道の幹線に直通できない」などがある。鉄道好きとしては大いに頷きたいところだ。しかし、ふと思った。バスの運行に携わっている人々は、これらの声に心を痛めていないだろうか。

[杉山淳一,ITmedia]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


 信州で学生時代を過ごした私はリンゴが好きだ。採れたて、芯の回りに蜜が満ちた「サンふじ」は本当にうまい。緑色の「王林」は、ちょっと置いて果肉が柔らかいほうが私の好み。私のリンゴのこだわりはこの程度だ。しかし、私より熱心なリンゴ好きに出会うと困惑する。「リンゴ最高だよな。果物はリンゴしかあり得ない。バナナや梨を好きなやつの気が知れない」というような人だ。同じリンゴ好きだけど、友達にはなりたくない。バナナだっておいしいよ。「オマエ、そんな考えでリンゴ好きを名乗るなよ」と言われてしまうと「じゃあボクはリンゴ好きじゃなくてもいいです」と思う。

 もちろん例え話だ。私のリンゴ好きは本物だけど、こんなリンゴマニアは知らない。ただし、このリンゴを「鉄道」に置き換えてみると、あるある話になる。

 私は鉄道が好きだ。旅だろうと通勤だろうと、列車に揺られ、景色を眺めているだけで気分が良い。しかし、私より熱心な鉄道好きはたくさんいる。「鉄道は最高だよな。交通手段は鉄道しかあり得ない。バスやクルマで旅するやつの気が知れない」。こういう人を見掛けると、「バスも便利だし、クルマの運転だって楽しいよ」と思う。

沿岸バスは国鉄羽幌線の代替バスを運行する。留萌本線廃止区間の並行路線もある 沿岸バスは国鉄羽幌線の代替バスを運行する。留萌本線廃止区間の並行路線もある

バス事業従事者の気持ちはどうなのか

 バスは嫌だ。鉄道を残してほしい。そういう気持ちは私も分かる。ただしそれは趣味の範ちゅうだ。趣味の範ちゅうで収まるならば、個々が好みを追求して構わない。好きを唱える行為は微笑ましい。よほど偏執な嗜好でなければ、誰も困らない。

 しかし、イヤだ、キライだという言葉は、その対象にかかわる人を傷つける。「バスは嫌だ」「鉄道がないと困る」「鉄道は地域の活性化に必要だ。バス転換した地方のほとんどは衰退している」。これらは鉄道路線の廃止の話題でよく聞く言葉だ。そこに悪意はなく、鉄道の利点を求めたいという心情を示している。

 バス事業に携わる人々は、もしかしたらこの言葉を聞いて悲しい思いをしているかもしれない。「バスは楽しいよ」「バスは便利だよ」「地域の役に立っているよ」。バス事業に携わる人は誇りを持って働いているはず。その気持ちを、鉄道にこだわる人の発言は踏みにじっていないか。ふと、気になった。

 バス事業者はどう思っていらっしゃるだろう。失礼な動機で恐縮しつつ、沿岸バス株式会社に問い合わせた。

 「正直、鉄道廃止論議のたびに、バス事業者さんが心を痛めているのではないかと気になりまして……」

 「悲しいと言うより、その言葉を真摯に受け止めたいと思います。地域の皆さんの移動手段が減ることですから」

 なるほど。地域の人々の辛い気持ちを察し、痛みを感じ取ろうとされていた。

 沿岸バスは北海道北部の日本海沿岸で、路線バスや高速乗合バスを運行する。本社は留萌管内羽幌町。創業は1926年、会社設立は1952年。路線バスは留萌市を中心に、増毛、旭川、羽幌、豊富などを網羅する。高速乗合バスは、留萌、羽幌、豊富と札幌を結んでいる。1987年3月に国鉄羽幌線(留萠〜羽幌〜幌延)の廃止を受け、代替バスの運行を開始した。

沿岸バスの路線網の略図。黄色が一般路線バス。赤色は高速乗合バスの高速道路経由、青色は高速乗合バスの増毛経由 沿岸バスの路線網の略図。黄色が一般路線バス。赤色は高速乗合バスの高速道路経由、青色は高速乗合バスの増毛経由

 2016年12月に廃止された留萌本線の留萌〜増毛間に並行する路線も運行しており、鉄道廃止後も、この地域の公共交通を引き受ける。鉄道の廃止日は増毛発の終列車を見送る鉄道ファンのために臨時便を運行して話題になった。前述の「真摯に受け止める」は、鉄道が担った交通の責任をバスが引き受ける。その覚悟と言えそうだ。

 並行路線の鉄道がなくなり、乗客をバスが引き継ぐ。単純に考えるとビジネスチャンスだ。しかし、相手が赤字ローカル線で、廃止の理由が乗客減となれば喜べない。沿線の人口が減っているからだ。大都市では鉄道が長距離大量輸送、バスが近距離中量輸送というすみ分けだった。鉄道が廃止されると、公共交通の担い手はバス事業者だけになる。その責任と地域の人口減少を受け止めてバスが走る。

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