トヨタの決算発表に見える未来池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)

» 2017年05月15日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]
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 この4月から始まった2018年3月期の見通しも、今回同様、減収減益となっている。質疑応答でメディアから2期連続の減収減益について所感を求められた豊田社長だったが、それを自ら名乗り出て答えたのは、今年4月に新たに副社長兼CFO(最高財務責任者)に就任したばかりの永田理氏だった。

質疑に積極的に答える永田理副社長(右) 質疑に積極的に答える永田理副社長(右)

 「先ほどの豊田の説明の中で、今期17年3月期の決算は、為替の追い風向かい風のない中での等身大の実力と申し上げましたが、18年3月期の見通しにつきましても大変厳しい数字になっておりまして、これが等身大の実力だと思うと私としては大変悔しい思いをしております。これでは絶対いけないと思っております。収益向上のための施策を強力に推進いたしまして、最大限の挽回に努めたいと思います。もう少し突っ込んで申し上げますと、作る人も売る人もお金をもっと賢く使うように徹底したいと思います。他社さんの取り組まれていることをいろいろと勉強させていただきますと、例えば製品を見たり、アライアンスから学んだことの物差しに照らしてみますと、まだまだやれることはあると思います」

 こういうところはトヨタの面白いところで、豊田章男というスーパースターに集中する質問を、新任副社長がポーンとさらって明確な意思を打ち出す、そして、アライアンス先から学ぶのだとはっきり言う。いつか訪れるポスト章男時代に備えればこういう人がどんどん気を吐かなくてはいけない。

 ダイハツもスバルもマツダもスズキも、規模としてはトヨタととても並べるサイズではない。だがしかしそこでおごりを持たずに学ぶ姿勢を持ち続けるのは生半なことではない。

 筆者が知る限り、性能を大幅に進化させながらより低コスト化するコモンアーキテクチャー戦略において最先端にあるのはマツダで、恐らくトヨタにとって最も学ぶことが多いのはマツダだろう。

 また良品廉価のコンパクトカー作りにおいてはダイハツとスズキが世界のトップである。これもまた学ぶに値するはずである。昨年導入したカンパニー制によって立ち上げたトヨタ・コンパクトカー・カンパニーにとって、吸収すべき課題は山のようにあるはずだ。ここ数年トヨタが進めてきた巨大アライアンスの構築が、トヨタに不足しているものを補い、強靱化するという目的の下に成されているとしたら、それはそれで恐ろしいばかりの深謀遠慮である。

 豊田社長は言う。「経営にとって一番問題なのは、課題があるということよりも、課題があるのかないのか、あるとすれば、今どれだけあるのかが分からないでいることです」

 今期の決算は確かに減収減益だ。来期の見通しもまた減収減益である。しかし、この決算発表を見る限り、トヨタは利益を出しながら研究開発費と設備投資を途切れさせず、課題を把握して経営を改善していくという絶対目標はしっかり達成できているようである。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

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