トヨタの決算発表に見える未来池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)

» 2017年05月15日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

 前述のように、為替変動には打つ手がほぼないので、トヨタがこの一年に何をしたかに関しては、経費増加の5300億円こそがキーになるだろう。これが例えばクルマの売り上げを水増しするための値引き原資や、リコール対応など状況悪化の出血を止めるための措置、つまり将来収益につながらない用途に使われているならば、トヨタの決算の減収減益は要注意と言うことになる。

 結論から言えば、トヨタは2017年3月期決算の純利益の最大化よりも、長期的な戦略を重視して、投資を優先した。豊田社長は特に研究開発費の重要性を強調する。

 「今回の決算は、目先の利益確保を最優先するのではなく、未来への投資も安定的・継続的に進めていくというトヨタの意志が表れた決算でもあったと思います。現在の自動車産業はパラダイムシフトが求められており、特にAI、自動運転、ロボティクス、コネクティッドなどの新しい領域が重要なカギを握ると考えております。こうした時代だからこそ、『未来』を創造する技術力と志を持った企業を育てていくことが必要だと考え、昨年1月にTRIを設立いたしました。今後も10年先、20年先を見据えた種まきを続けていきたいと思っております。こうした種まきは私たちだけでなく、ITなどの異業種や新興自動車メーカーなど、さまざまなプレーヤーも行っており、クルマそのものはもちろん、未来の自動車産業も従来とは全く違った世界になるかもしれません」

 新時代のパラダイムシフトに向けて、誰がいち早く技術を確立するかという競争こそが、自動車産業の未来を変え、その競争の最大のタイミングが今であると考えている様子が見受けられる。それが図4左の右肩上がりの研究開発費に現れている。

図4 研究開発費などの見通し 図4 研究開発費などの見通し

 そういう現状認識の中でトヨタが進めているのがTNGA(Toyota New Global Architecture)で、その根底には従来のトヨタの自己否定がある。TNGAはハードウェアのみならずトヨタの自動車事業の全てを包括して進化させる改革だ。変えるべき現状がなければ改革の必要はない。

 TNGAは2015年3月にその取り組みが発表されて以来、トヨタの最重要事項として進められてきた。同年の年末にはTNGA時代の幕開けを告げる4代目プリウスが登場、その後C-HR、カムリと順調にリリースを重ねており、2020年までに新時代シャシーを全生産数の5割まで拡大するとアナウンスされている。

 もちろんこのための研究開発費は重要だ。しかし研究開発費だけではTNGAは進まない。TNGAが自動車事業全ての改革である以上、生産設備を新時代に対応させていかなくては計画が実現できない。そこで図4右の通り設備投資も研究開発費同様に右肩上がりで増加させている。

 TNGA改革によって、全世界トータルでの工場の稼働効率は、2009年の70%から2013年は90%まで向上した。しかも高い生産柔軟性によってモデルチェンジでの設備の入れ替えを減らすことに成功し、モデルチェンジに際する設備投資費用を2008年比で50%に削減したという。卑近な話に例えれば、白熱電球をLED電球に変えるようなもので、初期コストをかけても、長期的なコスト低減でそれを十分に回収できるということだ。

 こうした研究開発費と設備投資について豊田社長は「強靱(きょうじん)な財務基盤を造り上げ、どのようなときでもブレることなく投資を進める準備もできています」と語る。

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