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» 2017年12月11日 06時35分 公開

池田直渡「週刊モータージャーナル」:マツダCX-8試乗 3列目は果たして安全だったのか? (5/5)

[池田直渡,ITmedia]
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3列目の安全性

 さて、最後に3列目の衝突安全に移りたい。結論から言えば、マツダは時速80キロでの追突安全実験をしっかりやっていた。高速道路の渋滞末尾で追突されることまで想定している。現実世界での事故を考慮した設計であり、恐らく世界的に見てもトップレベルであると思われる。

マツダ独自の衝突開発によって3列目の安全性も高めたという。追突速度をUS基準に合わせるとともに、国内法規では評価基準のない「最後席の生存空間」について社内基準を設けた マツダ独自の衝突開発によって3列目の安全性も高めたという。追突速度をUS基準に合わせるとともに、国内法規では評価基準のない「最後席の生存空間」について社内基準を設けた

 思われると言う歯切れの悪い言葉を使わざるを得ないのは、このあたりのデータを発表しているのはボルボくらいしかないからだ。ボルボは時速50キロ追突時の3列目の安全性を2列目同等と発表している(追突車両の重量などは不明なので直接比較はできない)。

 以前の記事にも書いた通り、速度差が大きな追突事故の場合、Bセグメントの3列モデルは、追突時の最後列の生存空間は恐らく絶望的である。

日本の追突事故(死傷事故)速度割合。統計上、時速40キロまでの追突が8割を超える。80キロともなれば、事故の99%をカバーできる(参照:公益財団法人 交通事故総合分析センターデータ 平成28年) 日本の追突事故(死傷事故)速度割合。統計上、時速40キロまでの追突が8割を超える。80キロともなれば、事故の99%をカバーできる(参照:公益財団法人 交通事故総合分析センターデータ 平成28年)

 クラッシャブルゾーンが取れないサイズで、かつ燃費面から軽量が求められるクルマではどうにもならない。しかし筆者はこれらのクルマがなくなれば良いとは思わない。統計上、追突の速度差の大きい事故はそれほど多くないとは言え、統計上で2割程度認められる時速50キロ以上での追突で3列目の安全性を確保しようと思えば、どうしてもクルマの大きさ、重さ、価格が増すことになる。3列目の生存空間に関しては、現在の法規では評価基準が存在しない。仮に法的に3列目の安全性基準を設けろと言うことになれば、すなわち貧乏人は多人数乗車するなということに等しい。だから、当該のクルマに関しては、できる限り2列目までに乗車し、止むを得ない場合に限って3列目を使うとか、速度差が大きくなる高速では使わないという乗り方をユーザーに周知することが重要だと考えている。

 しかし、大家族で、高い頻度で3列目を使い、そこに大切な人を乗せるならば、CX-8のコストパフォーマンスは多分世界一だろう。320〜420万円という価格は、誰でも買える値段だとは言わないが、Bセグ3列モデルだって実質的には180万円からスタートだ。倍近いと考えればその通りだが、差額の140万円で生死を分けるケースがあると考えれば大バーゲンである。

 さて、マツダがどうやって追突安全をクリアしているかと言えば、基本的な概念としては「最小クラッシュストロークを最軽量で実現する世界一のエネルギー吸収効率」を具現化しようと考えたのだとマツダは言う。

強度が必要なクルマの部位に超高張力鋼板を採用。力をストレートなフレームで支えてから両サイドの二又構造でエネルギーを分割して受け止める 強度が必要なクルマの部位に超高張力鋼板を採用。力をストレートなフレームで支えてから両サイドの二又構造でエネルギーを分割して受け止める

 まずは強固なバンパービームで衝突を受け止める。これは1800MPaというとんでもなく硬い高張力鋼を用いてリヤバンパーのどこに衝突してもその力を受け止める役割を担う。バンパービームはフレームとの間にある十字断面構造を持つステーに力を伝え、ここを蛇腹のようにつぶして衝撃を吸収する。吸収しきれなかった衝撃はストレート構造を持つリヤフレームに伝えられ、Cピラー下の二又構造によってピラーと前方フレームに分散されて吸収される。

 筆者は80キロでの追突試験の動画を見せてもらったが、驚くべきことに、追突後のリヤシートにはまったく歪みがなく、完全に形状をとどめていた。生存空間の確保は見事である。

 実は、筆者が以前「3列目の安全性がちゃんとしているかを試乗会で確認したい」と書くまで、マツダはこのデータを公表するつもりはなかったという。理由を尋ねると、「衝突安全の話は、とても難しいんです。ぶつかり方や条件で一概に何キロまで大丈夫と言えるわけではないので」と言う。それはそうだ。

(左から)バンパービームにホットスタンプを採用、ストレートフレーム構造/Cピラー下の二又構造を採用、時速80kmオフセット追突後の車体変形状況 (左から)バンパービームにホットスタンプを採用、ストレートフレーム構造/Cピラー下の二又構造を採用、時速80kmオフセット追突後の車体変形状況

 今回の時速80キロという条件にしても、重量1400キロの小型車を想定している。あくまでも一定条件の実験結果である。10トン車の追突でも同じ結果になるわけはないし、あるいは追突するクルマがルーフに材木でも乗せていて、それがリヤウィンドーを直撃すればどうにもならない。「時速80キロまで大丈夫だと言ったじゃないか!」と言われては困るのだ。人の命がかかる問題でモンスタークレーマーを恐れる気持ちはよく分かる。筆者はマツダが真摯に実験データを公開したことを賞賛したい。

 さて、まとめよう。CX-8は次世代SKYACTIVシャシーの要素を先行的に取り入れ、意欲的な取り組みをしているクルマである。ハンドリングやシートの出来については、理想の高さにまだすべてがついていってない。一方、パワートレインとブレーキは優秀で高いレベルを実現している。3列に多人数が乗り、快適で安全に移動するクルマとしては、既存モデルを廃止してこの1台に込めたマツダの意気込みを十分反映したものになっている。若干まだら模様であるものの、マツダの真面目さが形になったクルマだと筆者は感じた。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。

 →メールマガジン「モータージャーナル」


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