――先輩がやってきたことを自分もできるようになったことで、営業の仕事に自信が付いたのではないでしょうか。
そのころの自分は「そこそこできるんじゃないか」と思っていましたが、その考えは「ものすごく甘い」と感じさせられた出来事がありました。大分を担当する同僚がちょっとヘマをしまして、居酒屋チェーン店を運営する社長を怒らせることに。その居酒屋チェーンは当社と契約していて、契約更改のタイミングで「全店でキリンを導入したいと思っているので、見積もりをくれ」と言われていたのですが、競合他社と比べかなりの差がありました。社長は「これはどういうことだ!」と激怒していまして。
同僚の代わりに私が担当することになったのですが、その会社は担当したことがなかったので、イチから人間関係を構築しなければいけませんでした。社長から「福岡に出店したい」といった話を聞いたので、すぐに物件探しに走りました。たまたまいい物件があったので、契約することに。内装業者も紹介して、食材の業者を紹介して、従業員の面談場所も紹介して。新店舗に関係することをできるだけ協力させていただきました。
社長がクルマで移動するときも同席して、居酒屋チェーンでどのような課題があるのか、当社に対してどのような不満があるのか、ずっと話を聞いていました。新店舗に関係する話は順調に進んだのですが、契約更改の話になると厳しい口調で「契約額にあれほどの差があったことは容認できない。自分は会社を守らなければいけないし、従業員も守らなければいけない。だから、許すことはできない」とおっしゃっていました。社長とは3カ月で30日ほど会っていたのですが、契約更改の話は前に進まずでして。
契約が白紙になってもおかしくない状況だったのですが、そこで引いたら終わりになってしまう。契約額を上げて交渉しても、反応はいまひとつ。そのような日々が続いていたなかで、ある日、面談のために応接室に通されました。社長は不在だったのにもかかわらず、事務員さんがハンコを持ってきて、「契約書はどこですか?」と聞いてくるんですよね。いきなり言われたので、意味がよく分かりませんでした。前日まで「契約はしない」と言っていたのに、自分は頭を下げるためだけにやって来たのに。疑問が頭の中をグルグル回っていると、事務員さんはこのように言ってくれました。
「社長から伝言を預かっています。『約束をしていたので、契約は当然する。だけど、契約更改のときのような“脇の甘い仕事”をしていたら、こちらもパートナー関係を築いていくうえで、あなたの会社を信用できなくなるかもしれない。これまで失礼な言動ばかりしてきたが、いい教訓として受け止めてほしい』」と。
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