いきなりだが、この記事を読んでいる男性諸氏の中で、最近花を買ったことのある人はどのくらいいるだろうか?
実のところ記者はここ数年、花を購入するのはおろか、花屋に立ち寄るのも、年に1度の結婚記念日だけ。しかも店に入ってもどれを選んでいいのか分からず、まごまごするありさまだ。店では同じようなビジネスマンの姿を2〜3人見掛けて仲間意識を感じた次第である。
世の男性の多くにとっては日ごろあまり触れ合う機会のないだろう花だが、日本のフラワー業界も厳しい状況に置かれている。農林水産省の調べによると、切り花類の出荷量は下降傾向で、2016年は37億8100万本と、最も多かった1996年と比べて約20億本(34%)も減少した。背景には販売農家の減少や切り花の輸入増加などがある。切り花の消費も低迷しており、1世帯あたりの年間購入額は16年が9317円。とりわけ若年層の購入額が著しく低い。29歳以下では1685円という結果が出ている。
そうした現状に問題意識を持ちつつ、「人々の暮らしの中に植物が当たり前のようにあって、都会でも花や緑があふれているような未来にしたい」と夢を語る女性がいる。フラワーアーティストの前田有紀さんだ。
ご存じの方も多いだろうが、彼女は元々、テレビ朝日のアナウンサーだった。入社してわずか6日目でサッカー番組「やべっちF.C.」のアシスタントに抜擢され、その後もスポーツやバラエティなどさまざまなジャンルで大活躍した。
「とにかく無我夢中で働いた」と当時を振り返る前田さんだが、入社からちょうど10年たった2013年にテレビ朝日を退社。時を置かずして飛び込んだのがフラワーやガーデニングの世界だった。英国に留学、インターンしながらさまざまなことを学び、帰国後は都内の花屋で働いた。
現在は独立し、花を使った空間作りをテーマに、イベントやパーティー、ウエディングなどで装飾を手掛けるほか、「世界の花屋」というオンラインショップに携わっている。彼女は1児の母でもあり、子育てと仕事を両立させながら奮闘する毎日を送る。
働き方の多様性が叫ばれる中、「好きなこと、やりたいことに挑戦する多くの人たちを後押ししたい」と前田さんは意気込む。そんな彼女はなぜ花や植物にかかわる人生を選んだのだろうか。自身の歩みを振り返りながら、前田さんのいま、そしてこれからをじっくりと話してくれた。
「幼少のときから自然が大好きで、大学も緑あふれるキャンパスを選びました」
前田さんが通ったのは、慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス。通称SFCと呼ばれるこのキャンパス内には広い芝生と池があり、学校の周囲には田畑が広がり、養豚場などもある。文字通り、自然をじかに感じることのできる場所である。
小さいころから横浜の街中で育ち、小学1年生からは東京まで満員電車で毎日通学するなど、前田さんは日常生活で自然に触れる機会がほとんどなかった。ただ、母親の実家がある鳥取に訪れると、そこで目にする大自然が幼心にとても刺激的で、わくわくするものだったという。それが彼女の花や植物との出会いだ。
「田んぼのあぜ道を走り回ったり、川遊びをしたりと、夏休みはいつもそのように過ごしていました。次第に自然への憧れが芽生えてきて、常に植物に接していたいという気持ちが人一倍強くなりました」
自然に囲まれたところで勉強したいと、それがかなう大学に入り、体育会のラクロス部に入部。毎日早朝から河川敷で練習するため、草花や土にまみれる学生生活を送った。
「スポーツにかかわる仕事を!」と、テレビや新聞などメディアを志望した前田さんは、就職活動を始めて最初に応募したテレビ朝日のアナウンス部にそのまま合格。あっという間に進路を決めたのだった。
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