連載
» 2018年03月02日 07時00分 公開

杉山淳一の「週刊鉄道経済」:廃線と廃車、近江鉄道が抱える2つの危機 (1/5)

滋賀県の近江鉄道を訪ねた。琵琶湖の東岸地域に路線網を持ち、地元からは「ガチャコン」の愛称で親しまれているという。しかし、鉄道部門は長らく赤字、バス事業などの黒字で支えられてきた。その経営努力も限界を迎えつつある。

[杉山淳一,ITmedia]

 「このきっぷ、安すぎませんか」

 「いやあ、そんなこと言われたの、初めてですよ」

 滋賀県の近江鉄道の駅で、駅員さんと交わした言葉だ。「このきっぷ」とは「1デイスマイルチケット」というフリーきっぷだ。近江鉄道の全線が乗り放題で880円。金土日と祝日に販売している。なぜ安いかというと、近江鉄道の米原駅から、最も遠い貴生川駅までの片道運賃が1030円だ。片道切符より安いフリーきっぷで、往復もできる。

 私にとって、地方鉄道のフリーきっぷは、最も遠い駅との往復運賃よりちょっと安いくらいが相場という感覚がある。あるいは同額か1割くらい高くてもいい。最長区間に乗って、途中の駅で降りて観光すればモトが取れる。そういう相場感覚だと、「1デイスマイルチケット」は2000円以上の価値はある。近江鉄道のフリーきっぷはおトクすぎる。

photo 近江鉄道700系電車。西武鉄道の中古通勤電車を改造して作られた。近江鉄道の彦根工場は技術力の高さで知られる
photo 全国路線制覇をめざす乗り鉄にとって、フリーきっぷはありがたいアイテム

 この日、私はまず、米原で乗って彦根で下車した。ここには近江鉄道の車庫があり、退役した古い電気機関車が留置されている。これらの機関車も全て解体予定と聞くから寂しいけれども、その話は後にしよう。彦根の次は多賀大社へ行ってお参りした。次は近江八幡へ行って、バスで八幡神社へ行きロープウェイで琵琶湖の展望を楽しんだ。

 近江八幡駅に戻り、近江鉄道の八日市線で貴生川を目指す。JRで東海道本線と草津線を乗り継いだ方が早いけれども、フリーきっぷがあるし、「近江八幡発貴生川行き」という、とても都合の良い電車があった。貴生川駅で信楽鉄道に乗り継げるけれども、暗くなったので米原に引き返した。

 このルートを1つ1つ片道乗車券で乗っていくと3440円になる。それが880円で済んでしまった。約4分の1だ。いくらなんでも安すぎないか。もっとも、私のように全区間を乗りつぶそうとする欲張りは少ないかもしれない。880円は5つ先の駅まで往復すればモトが取れる金額だ。米原と多賀大社への往復、八日市と近江八幡の往復などが多いと思われる。

photo 近江鉄道路線図(出典:近江鉄道

 ただし、その背景には、もともと普通運賃が高いという声もある。初乗り運賃こそ150円で、並行するJR西日本より少し高い程度だけど、9.9キロの米原〜高宮間は450円となり、JR西日本の7〜10キロの運賃200円の2倍になる。ちなみに米原〜彦根間は近江鉄道が310円、JR西日本は190円だ。米原〜近江八幡は近江鉄道の950円に対し、JR西日本は500円となる。同じ駅同士を比べれば遠回りした方が運賃は高いとはいえ、対距離運賃で近江鉄道は高めだ。

 「1デイスマイルチケット」の価格設定は、休日の利用者促進、あるいは沿線市民への感謝の気持ちが込められているかもしれない。平日の高い運賃のおわびと言ってしまっては皮肉が過ぎる。この日は2月の土曜日で、日中の乗客は少なかった。そのなかでも、地元の親子連れと思わしき乗客が「1デイスマイルチケット」を使っていた。運賃が安ければ乗るという人々は存在する。

       1|2|3|4|5 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ

マーケット解説

- PR -

Digital Business Days

- PR -

ITmedia 総力特集