鉄道を実用的な道具として使う人からは実用的な運賃をいただく。でも、私のように鉄道を趣味として楽しむ人からは、楽しむための料金をいただいてもいいと思う。それも経営努力ではないか。鉄道ファン向けに積極的に利益を出そうという姿勢を見せれば、自治体に対しても、近江鉄道自身が観光資源になり得るというアピールになる。近江鉄道を目的として訪れる人々が、食事や観光で地域に利益をもたらす。鉄道を残そうという機運も高まる。
そこで冒頭のエピソードに戻る。この駅では昔ながらの硬券きっぷを販売していた。窓口をのぞくと、きっぷホルダーや日付刻印機もある。
「あ、硬券ですね」
「懐かしいと思われそうですが、ウチはほとんど硬券です」
そういえば、販売機は3カ所くらいしか見かけなかった。記念に入場券を買ってみた。経費削減で、各駅の専用入場券はなく、全駅共通の入場券に駅名のゴム印を押すタイプだ。
「こんなので申し訳ないのだけど」と駅員さんが言う。
日付刻印機を通す。なんと、年の値が一桁。しかも「8」。西暦だった。日付刻印機が昭和時代に製造された古いもので、年の10の位が5と6しかないという。日付刻印機の数字については、もはやメーカーが製造していない。しかし、ライセンスを受けて作っている会社はある。その費用もないのだろうか。何だか泣けてきた。
そこで、思わず言ってしまった。「フリーきっぷ、安すぎませんか。もっと高くてもいいんですよ」と。
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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