値下げで増収? ある第三セクターの緊急対策杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)

» 2017年04月28日 07時15分 公開
[杉山淳一ITmedia]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


 4月から値上げになったもの。電気料金、ガス料金、各種保険料、航空会社の燃油サーチャージ、煙草の一部、小麦粉、乳製品など。そう言えば、郵便受けに6月1日から郵便料金の一部も値上げするというお知らせが入っていた。年賀郵便以外のハガキは52円から62円に。定形外郵便は新たに規格外料金が設定されて、実質値上げだ。

 定形外郵便の規格内と規格外とはややこしい。既存の規則と区別できるようにと新しい規則を作っていくうちに、料金体系が複雑になっていく。まるで鉄道運賃のようだ。郵便よ、オマエもか。

 ところで、鉄道運賃のややこしさを象徴するような事例が起きた。4月14日、富山県の「あいの風とやま鉄道」が、一部区間の運賃値下げを発表した。実施は翌日から。これは異例だ。通常、運賃改定は周知期間を置くものだ。鉄道運賃の値上げは国に認可申請する必要があるため、もっと早く公表する事例が多い。

「あいの風とやま鉄道」公式サイト 公式略称は「あいトレ」らしい 「あいの風とやま鉄道」公式サイト 公式略称は「あいトレ」らしい

 公共交通機関の運賃値上げは「上限運賃の認可申請」という形になる。つまり、この路線は最高でこのくらいの運賃をいただきたい、と申請する。国は、その運賃が適切かを審査する。似た環境の鉄道事業者の経費などを把握しており、経営努力なしの値上げは認められない。ただし、値下げはこのような緊急対応が可能だ。認可を受けた運賃は上限だけだから、上限を超えない限り任意に設定できる。

 生活関連品目が値上げされる中で、鉄道利用者にとって運賃の値下げはありがたい。しかし、「あいの風とやま鉄道」と言えば、北陸新幹線の金沢延伸開業に伴って誕生した第三セクター鉄道だ。富山県が主体となって設立され、営業区間は旧北陸本線の倶利伽羅(くりから)〜市振の東西方向で約100キロメートル。西側は石川県の「IRいしかわ鉄道」に接続し、東側は「えちごトキめき鉄道」に接続する。どちらも基はJR西日本の北陸本線だった。石川県、富山県、新潟県の会社に分割されたわけだ。

 地方鉄道、特に並行在来線は経営条件が厳しい。幹線として作られた設備の維持負担が大きい上に、ドル箱だった特急列車は廃止された。だから「あいの風とやま鉄道」も経営の厳しさに音を上げて値上げしたい……と、ダジャレを書いている場合ではない。しかし、今回の値下げによって、実は増収になるかもしれないから、こちらも話はややこしい。

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