「SHOWROOM」創業者が語る“生き残るコンテンツ”の条件キーワードは「相互作用」と「ストーリー」

» 2018年04月13日 08時30分 公開
[青柳美帆子ITmedia]

 SHOWROOMが運営するライブ動画配信サービス「SHOWROOM」が好調だ。米アプリ調査会社App Annieの4月11日の発表によると、日本のアプリの収益ランキング(ゲームを除く)で7位にランクイン。17年11月の時点で、単月ベースでの黒字化も果たしている。

 特徴は「100%ライブ配信」と「視聴者の可視化」だ。ライブ動画配信サービスには、見逃した配信をタイムシフトで再生できる機能があることが多いが、SHOWROOMはあえて「生配信」だけにこだわる。また、動画最新サービスにはおなじみのコメント機能も少し変わっている。コメントだけが並ぶのではなく、配信画面に視聴者がアバターやアイコンの形で表示されるのだ。視聴者は、コメント、リアクション、有料のバーチャルアイテム「ギフト」を送ることで配信者を支援できる。

 では、SHOWROOMではどのような配信がウケているのか。実際に見てみると、少し困惑するかもしれない。YouTubeなどでも見るような、メークのやり方を教える配信やゲームを実況する配信は理解がしやすい。しかしSHOWROOMでの多くの配信は“雑談”。配信者と閲覧者がコメント機能を介してたわいないおしゃべりをしているような配信が、強い支持を得ているのだ。

 SHOWROOMはAKB48グループなどのアイドルグループと提携し、アイドルが毎夜配信を行っている。「雑談が人気なのはアイドルだからじゃないの?」と思いたくなるところだが、人気なのはアイドルに限らない。アイドルの卵や、いわゆる“普通の女の子”、主婦、バーチャル美少女など幅広い配信主が「SHOWROOMER」として活動している。

 なぜSHOWROOMには人が集まるのか。そして何気ない雑談が“売れる”理由とは。キーワードは「インタラクション(相互作用)」と「ストーリーへの共感」――前田裕二社長が「コンテンツ東京2018」(4月4〜6日、東京ビッグサイト)で語った。

“雑談”がウケるワケ

講演会場のスクリーンに現れたバーチャルSHOWROOMER・東雲めぐさん

 会場のスクリーンに現れたのは、急速に人気が出てきているというバーチャル美少女・東雲めぐさん。前田社長はめぐさんとこんな会話をする。「今日はコンテンツ東京に来ているんだ、知ってる?」「し、知らないです〜、すみません……」「いやいや(笑)。今日はめぐちゃんは誕生日なんだよね」「そうなんです!」「おめでとう!(会場内で拍手)」「ありがとうございます〜!! うれしいです」。

 こうしたやりとりに、「SHOWROOM」がウケている理由が詰まっている。

 「コンテンツが増えている中で、視聴者は『自分を向いているもの』に快楽を覚えやすくなっている。発信側と視聴側で双方向のコミュニケーションが発生し、『自分がコンテンツの一部になっている』と感じられることが、大きな価値になっているのです」

 テレビで放送されるバラエティやアニメといった既存のコンテンツは“一方通行”で、視聴者は受け身でコンテンツを楽しむものだ。一方で「SHOWROOM」の配信は、配信者が自分のコメントやリアクションに反応し、コンテンツの方向性すらも変わっていく。先ほどのめぐさんとの会話の例では、「お祝いをしたらめぐさんが喜んでくれた」ということが快楽になる。

 画面上にアバターが表示されるため、「実際に参加している感じ」が視覚的にも現れている。「他のライブ動画配信サービスと比べても、利用者は非常に能動的に配信に参加しています。『配信を見る』ではなく『配信に行く』という表現をするくらいです」という。

配信中の画面にアバターが表示される。コメントやギフトをたくさん送れば目立つ位置に表示される仕組みだ

 「SNSの次の潮流はライブストリーミングだと確信しています。Facebook、Twitter、Instagramといった大手SNSが、次々とライブ配信に参入している。それはインタラクティブを最大限にできるのがライブ動画だからです。現実世界がITのサービスで効率化すればするほど、人々はバーチャル世界に絆を求めると予想しています」

「共感」で人はファンになる

 「現代のオーディエンスは、モノではなく人に対して価値を感じるようになっています。その人の文脈やストーリー(物語)に感動するんです。例えばHKT48の指原莉乃さんが総選挙で1位になったのは、彼女が『引きこもりだった学生時代、アイドルに勇気をもらった。今度は自分が勇気を与える側になりたい』という強いストーリーをもっているから。ファンは指原さんのストーリーに共感し、応援します」

 「SHOWROOM」の配信でも、配信者のストーリーが人々の共感を呼び、ファンを集めている。例えば50歳主婦のちづるさんは、少女時代におニャン子クラブに憧れ「アイドルになりたい」という夢を抱いていたものの、母に反対されて諦めた。しかし「SHOWROOM」を知り、もう一度夢をかなえるために配信を始めたという。ちづるさんの配信には濃いファンが付き、現在は芸能事務所と契約してアイドルとして活動している。「ちづるさんの歌は正直すごくうまいわけではありません。でも、彼女のストーリーを知っている人が見ると、涙が出てくるんです」と前田社長は話す。

 こうしたストーリーが生まれやすくするために、「SHOWROOM」では雑誌登場や事務所所属を賭けたオーディションを定期的に実施している。ファンの数や視聴回数が評価の対象にもなるため、ファンは「応援しているあの子を、自分の力でスターにしたい」と配信を盛り上げる。

 配信者にも成長や努力が求められることがある。運営は配信者の売り上げやフォロワー数をはじめ、「どんなユーザーからコメントが来たのか?」「どのコンテンツにギフトが贈られたのか?」などのデータをフィードバックする。「感覚では動かない演者も、データと具体的な改善策を突き付けると変わることがある」という。新人タレントや駆け出しのアイドルが、視聴者の声によって努力の方法に気付き、スターに変わっていく――というのも、1つのドラマティックなストーリーだ。こうした育成装置としての期待もあり、1500社がオーガナイザーとして参加している。

 「ライブ配信は日本に先んじて中国で広がっていますが、中には『ギフトを送れば出会える』と思ってお金を使うようなオンラインデーティング型に近いサービスもある。『SHOWROOM』はそうではなく、自分のためではなく他の人のためにお金を使う“共感経済型”として広めていきたいですね」

 前田社長は「SHOWROOM」の運営を通じ、「再現性のあるヒットコンテンツ」を生み出すための研究に取り組んでいる。その中で行きついた「インタラクション」と「ストーリーへの共感」は、ライブ動画サービスだけでなく、さまざまなビジネスを発展させるヒントになりそうだ。

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