この話はイノベーションに関する本質的な問題でもある。イノベーションが発生すると、たいていの場合、業務の省力化が可能となる。より少ない人数で、同じ業務をこなせるようになり、余剰な人材は別の業務に従事することで、社会全体の生産が拡大していく。
イノベーションが労働市場にもたらす影響はそれだけではない。同じ業務に従事する人員が減るだけでなく、その業務に求められるスキルについても質的な変化をもたらす。
ここから分かることは、イノベーションの効果を最大限発揮するためには、人材の流動性を高め、必要なところに必要な労働者を配置できる環境が不可欠ということだ。逆に言えば、十分な人材の流動性が確保できない状況では、イノベーションの効果は半減してしまう。
空調大手のダイキン工業は2018年4月に入社した技術系の社員について、現場の業務に従事させず、2年間、AIやIoT(モノのインターネット)について教育を施すという。AI化への対応が遅れる日本企業が多い中、人材育成を強化しようという試みそのものは評価できる。
だが、AIに関するスキルを持った人材がほしいのであれば、中途採用で外部から雇うという方法もある。教育を施した新人が実務で力を発揮するまでには数年のタイムラグがあることを考えると、すでにスキルを身に付けた人を採用してしまった方が効率が良いだろう。ではダイキンはなぜそうしないのだろうか。
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