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世界が知らない“最強トヨタ”の秘密 友山副社長に聞く生産性改革池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)

» 2018年07月17日 06時30分 公開
[池田直渡ITmedia]

カイゼンの根源は人が変わること

池田: ということは、ニュルブルクリンクのレースチャレンジは、トヨタの生産性改革にとって今後なくてはならないのですか?

友山: なくてはならないと思いますよ。ニュルだけじゃなくて世界耐久選手権(WEC)ではレース以外の時にあまりコースを走れません。だからコンピュータシミュレーション、つまりモデルベースデベロップメント(MBD)でやるしかないし、そのノウハウが蓄積します。

池田: 確かにルマンなどは常設サーキットじゃないですからね。テスト環境はバーチャルにしか用意できませんね。

友山: 精度の高いシミュレーションができるようになると、試行錯誤の無駄を極限まで減らせます。試作車の台数が減ってコストが下がります。納期も短くなります。つまり、レース現場は生産車の開発を短期間に確実に進めるノウハウの塊なのです。もちろんシステムも大事ですよ。大事だけど人の頭が変わらないと。「あ、こうやってできるんだ」という風にならないと生産性改革はできないんです。

現在のトヨタ町の旧地名は挙母町(ころもちょう)。1938年の挙母工場の生産風景 現在のトヨタ町の旧地名は挙母町(ころもちょう)。1938年の挙母工場の生産風景

池田: それはトヨタのDNAなのかもしれませんね。トヨタの根幹であるトヨタ生産方式では、チャップリンの『モダンタイムズ』みたいにただネジを締めるという単純労働ではダメだと。1つの工程しかできない単能工ではなく様々な工程がこなせる多能工でなくてはならないし、機械の番をする人であってもいけない。生産ラインは中央集権的管理ではなく自律分散的に個々の人が判断して作業を行うことになっていますよね。カイゼンなんてその最たるもので、最初に教えられたやり方を漫然と続けていては怒られる。変えるべきことはないのかを現場で常に考えろ、提案しろと言われます。それはシステムじゃなくて人こそが最大のキーファクターだという理念で、今回の話ととても符号しています。

友山: トヨタ生産方式は「ジャストインタイムとニンベンの付いた自働化だ」とよく言われますが、それを本で読んだらトヨタ生産方式ができるかと言うと、できないんですよね。実は働く人の考え方が変わって行くことの方に本質があるのです。いつだって問題は絶対に何かある。永遠に無くならない。それを見つけ出してカイゼンすると言うサイクルをものすごく早く回して行くとイノベーションを生み出せるのです。

池田: すごいですね。イノベーションを連続的に生み出す仕組み。イノベーションはひらめきで生み出すのではなく、日々のカイゼンの積み重ねで生み出す。それはすごく腑に落ちます。ただ、現場がそのように自律分散型で自己管理できるのだとすれば、マネジメントなんていらない気がします。マネジメント側はいったい何をやるんですか?

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