複数の中央省庁が、障害者の雇用率を長年水増ししてきた疑いが浮上している。障害者雇用促進法は1976年の改正で、従業員の一定割合以上の障害者を雇用することを義務化した。国や地方自治体には民間企業よりも高い雇用率が設定されている。しかし、国は対象外の職員を算入して、雇用率を達成していたかのように、虚偽の数字を発表していたのだ。
水増しの疑いは省庁にとどまらない。地方自治体も次々と水増しを認める異常事態に発展している。障害者の法定雇用率は2018年4月から、国と地方自治体は2.3%から2.5%に、民間企業は2.0%から2.2%に引き上げられたばかりだ。
障害者雇用の現場で、一体何が起きているのか。自身も脳性麻痺(まひ)の子どもを持ち、著書『新版 障害者の経済学』(東洋経済新報社)で障害者雇用の問題点を明らかにした、慶應義塾大学の中島隆信教授に、国と地方自治体による水増しの背景と、日本の障害者雇用の問題点を聞いた。
――今回の国や地方自治体による障害者雇用率の水増しを聞いて、率直に感じたことは。
役所は障害者の雇用を民間に押し付けてきたにもかかわらず、自分たちが水増しをしてとんでもない、という声がいろいろなところから上がっている。しかし今回の問題を「役所はけしからん」と、感情論だけで済ませるのは非常によくないと感じている。問題の本質がどこにあるのかを冷静に考えるべきだ。
――水増しが起きた背景を、どのように見ていますか。
役所の法定雇用率が、なぜ民間よりも高く設定されているのかを考える必要がある。障害者を雇用することは、企業にとっては大変なことなので、雇用が義務化された時に「命令する役所がまず手本を示せ」という発想があったのではないか。この発想が先にあって、役所が企業よりも多くの障害者を雇うことには、理論的な根拠がなかったのではないかと考えている。
――なぜそういえるのですか。
役所の仕事は、基本的に事務的なものが多い。そこからどれだけ障害者のために仕事を作れるだろうか。
雇用の義務化は、1976年は身体障害者だけが対象だった。続いて97年に知的障害者が義務化され、今年は精神障害者の雇用が義務化された。しかし、役所で単純事務作業を切り出すには限界がある。その点から考えると、おそらく役所で働いていた障害者は、身体障害か、内臓疾患のある人が多かったのではないだろうか。
比較的軽度の障害で手帳を持っていない人などを数に入れて、水増しをしていた可能性はあると思う。
――一定の数字以上は、雇用を作り出せなかったということですか。
そもそも中央省庁などの役所は忙しすぎる。仕事の量が市場経済で決まっていないために、仕事量を自分たちでコントロールできない。政治家も役人をこき使う。
私もかつて内閣府で2年ほど役人勤めをした経験があるのでよく分かるが、国会対応も含め寝る間を惜しんで仕事をするのが当たり前の世界だ。近年では、アウトソーシングが進み、役人の数も減らされ、本省庁にはコアな事務仕事しか残っていない。かといって民間企業のように障害者を専門に雇い入れる子会社を設立できるわけでもない。
そんな状況のまま障害者を多数雇うのは容易でない。だから実のところは、役所にことさら高い雇用率を課す必然性はないのだ。むしろ今回のような問題を引き起こす弊害の方が大きいだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング